ナップ、再び

 そこに立っていたのはナップだった。

 ナップの顔を見たトロンの杖から雷が迸る。

「ぎゃあああああ!」

 雷を浴びたナップは床に崩れ落ちた。

「なんだ、またお前か」

 ムチャが痙攣するナップを剣の鞘でツンツンと突いた。

「み……巫女様……何をされるのですか……」

「巫女様って呼ばないで」

 トロンはムッとした顔で言った。

「しつこい奴だな。どうする?」

「記憶を消す」

 トロンは楽屋に置いてあった金槌と杖を見比べる。

「いや、物理はやめとけ!」

 トロンが呪文を唱え始めると、ナップは慌てて立ち上がった。

「お待ちください! 巫女様、今すぐここからお逃げください!」

「お前からか?」

「違う! 寺院の過激派の連中が動き出したんだ!」

 二人は取り敢えずナップの話を聞く事にした。

「手短にな。俺達明日のネタ合わせがあるから」

「それどこじゃ無いんだ! 巫女様は命を狙われているんだぞ!」

 トロンは巫女様と呼ばせない事を諦めたようだ。苦い顔をしたまま話を聞いている。

「私は巫女様を取り戻すように命を受けた。だが、それと同時に巫女様を抹殺する指令を受けた奴らがいたという情報が入ったのだ」

 ムチャは首を捻った。

「何でそんな事するんだよ?」

「我々は巫女様を取り戻し、巫女の座に戻って来ていただきたいのだが、その裏に巫女様を抹殺しあるお方を巫女の座に着かせたい者共がいるのだ」

「ご自由に着いてくださいって伝えて」

 トロンはげんなりした顔をしている。

「お芝居の席では無いのですから、そう簡単にはいかないのです。巫女様のお力は破格でありましたが、その巫女候補のお方は……その……あれなもので」

 ナップは視線を泳がせた。

「まぁ、トロンを抹殺しようなんて性格もあれな奴なんだろうな」

「あれな奴とか言うな。お前が巫女様を連れ出さなければこんな事にはならなかったのだ!」

「違う。私がムチャと行きたいって言ったの」

 トロンは初めてナップの目を見据えた。

「そのような事を仰らないでください巫女様。取り敢えずここを離れて私と一緒に寺院へ帰りましょう」

「やだ」

 トロンは首を振った。

「しかし、このままでは奴らが……」

 ムチャ、トロン、ナップの三人は同時に屋根裏の気配に気付いた。

「遅かったようだ……」

「今日は客が多いな。ファンが多いと大変だ」

「サインも考えとこうか」


 二人は相変わらず呑気であった。


 三人は楽屋の窓から飛び出した。

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