トロンと召喚魔法2

 まずはエスペリアがやってみることにする。

 エスペリアは素手での魔法を得意としているが、授業中は使い勝手の良い短い杖を愛用していた。

 エスペリアは集中し、先程教師がやったように杖を振る。すると、魔法の光は渦巻いてクジャクの形となった。なんとエスペリアは一発で成功してしまったのだ。

「ふぅ、これくらい簡単ね。私に相応しいエレガントな召喚獣ですわ」

 実はエスペリア、この授業のためにしっかり予習と練習をしていたのは内緒だ。


 エスペリア様素敵!

 流石ですわ!

 クジャクあそばせ!


 どこからともなく取り巻き達が集まってきてエスペリアを褒め称える。エスペリアが胸を張ると、それに合わせたようにクジャクがバサッと羽を広げた。


 トロンはエスペリアに拍手を送り、自分もやってみることにした。実はトロンは、召喚魔法を使うのは初めてであったが、自らの心を具現化する召喚魔法であるのならば、感情魔法を扱えるトロンにとっては割と簡単な魔法である。

「うーん……」

 トロンが集中すると、杖に魔力が集まり、杖から黒い煙が立ち上り始めた。

「と、トロンさん?」

 エスペリアは嫌な予感がして、トロンの側から離れる。杖から立ち上る黒い煙は空中で渦巻き、暗黒の球になった。演習場の生徒達がそれを見てざわめき始める。

 そして。

「我が心よ、獣となりて姿を現せ」

 トロンがそう唱えた瞬間、空中に浮かぶ真っ黒な球が破裂した。

 破裂した球は煙となり、演習場に広がる。生徒達は驚いて皆逃げ出そうとしたが、煙は無害であり、それ以上は何も起こらなかった。

「みんな落ち着いて!」

 教師が皆を落ち着かせると、煙は徐々に晴れてきた。

「トロンさん! 大丈夫ですの!?」

 煙が完全に晴れると、エスペリアがトロンに駆け寄る。トロンは平然と立っており、特に異常は無いようだ。

「あれ? 失敗?」

 トロンは辺りを見渡すが、そこには召喚獣の姿は無い。

「と、トロンさん……」

 すると、トロンの頭上をエスペリアが指差した。

「ん?」

 トロンの頭上には何かが乗っていた。


「ちゅー」


 それは可愛らしいハリネズミであった。

 ハリネズミはトロンの頭上からモゾモゾと動き、肩まで下りてきて腕へと渡る。トロンは手を差し出し、ハリネズミをそっと手のひらに乗せた。

「ちゅー」

 ハリネズミはクリクリした目でトロンを見つめ、鼻をヒクヒク動かしている。

「おぉ……」

 トロンは感動で目を丸くした。

「まぁ、トロンさんらしい召喚獣ですわね」

 エスペリアはそう言ったが、それはとても役に立ちそうも無い召喚獣であった。

 しかし、トロンはそのハリネズミが気に入ったようで、名前をつける事にした。


「君は……チュートロ」


「チュー」

 チュートロは嬉しそうに鳴いた。

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