トロンと召喚魔法3

 その後も召喚魔法の授業は続き、早々に召喚を成功させたトロンはチュートロと遊んで過ごす。

「違いますわ! 翼を広げるのはもっと優雅に!」

「クエー」

 エスペリアはクジャクにジュエルと名付け、何やら芸らしきものを仕込んでいた。


 そして授業も終盤に差し掛かり、トロン達の他にも召喚に成功する者も出てきた。犬や猫を召喚する者もいれば、中には虫や空を飛ぶ魚を召喚する者もいて、演習場はさながら動物園のような様相となる。


 そんな中、男子の一団から突如悲鳴が聞こえた。

 トロンがそちらを見ると、ハリーノが召喚した羊が、誰かの召喚した狼に追い回されている。

「あぁ! 僕の羊が!」

 狼を召喚した男子は狼を必死に止めようと命じているが、狼は言う事を聞かずに、ガウガウと吠えながら暴れ回っている。

「ちょっと! あなた、落ち着いて!」

 教師が慌てて指示を出すが、狼を召喚した男子は焦っているのか狼を制御する事ができない。

 パニックは演習場全体に広がり、皆自分の召喚した獣達を消して、その場から逃げ始める。


 すると、逃げ回っていた羊がトロンの元に走ってきて、トロンの後ろに隠れた。

「え?」

 羊を追いかけていた狼が、トロンの前で立ち止まる。

「ガルルル」

 そして狼は呻き声をあげ、トロンを威嚇し始めた。

「トロンさん逃げて!」

 教師が叫んだが、狼はすでにターゲットを羊からトロンへと変えており、今にも飛び掛かりそうである。


 その時である、チュートロがトロンの手から飛び出し、狼とトロンの間に割って入った。

「チュートロ!」

 チュートロはまるでトロンを庇うようにトロンの前に立ちはだかると、毛を逆立てて小さな目で狼を睨みつける。

「ガルルルルル!」

「ヂュー!!」

 狼とチュートロは火花を散らし睨み合う。

 しかし、小さなチュートロでは狼に襲われてはひとたまりもないであろう。

「ガウウウ!!」

 狼がチュートロに襲いかかろうとした次の瞬間、突然チュートロの体が光を放った。

 そして。


 ジャキーーーン!!


 チュートロの逆立った毛が一斉に伸び、チュートロはまるで巨大な剣山のような姿になった。

 それを見た狼はたじろぎ、途端に大人しくなる。

「ヂュー!!」

 チュートロは毛を逆立てながら、ジリジリと狼へと向かって歩みを進めた。それに合わせて狼はジリジリと後退する。

「きゅーん」

 チュートロの気迫に負けた狼は、尻尾を巻いて召喚主の男子生徒の元へと戻っていった。男子生徒に触れられた狼は、魔法の光となって消える。

 トロンの背後に隠れていた羊も、ハリーノの元に戻ると、魔法の光となって消えた。

 逃げていた生徒達から、トロンとチュートロへと拍手が送られる。


「チュー」

 チュートロは針を元の長さに戻し、トロンの方を振り返った。

 そんなチュートロをトロンは抱き抱える。

「チュートロ、守ってくれたの?」

 そしてキョトンとしているチュートロの頭を、指でうりうりと撫でてやった。チュートロは気持ち良さげに目を細めた。

「その子、小さいけどあなたに似て度胸があるのね」

「うん」


 そして、授業の終わりがやってくる。

 チュートロとの別れをおしみ、中々チュートロを消そうとしないトロンに教師が声をかけた。

「大丈夫よ、その子はいつもあなたの中にいるんだから」

「……はい」

 トロンがチュートロの鼻にチューをすると、チュートロは光となって消えた。

「またね、チュートロ」


 チュー


 トロンには、消えたはずのチュートロの鳴き声が聞こえた気がした。

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