獣達の夜6

「レオ! こんな夜中に寮を抜け出して何をしている!?」

「ハリーノ! 学校で悪さをしてはいけないとあれ程言ったでしょう!?」

 レオの父親とハリーノの母親は互いの子に歩み寄り、怒鳴りつけた。

「お、親父こそこんな所で何やってるんだよ!?」

「いや、母さん、これは違うんだって!」

 二人は相当混乱しており、突如現れた親に怒鳴られて顔を青くしている。

「とにかく、早く寮へ戻るんだ!」

 レオの父親はムチャ達が今しがた歩いて来た道を指差す。

 レオとハリーノは突然の親の出現に戸惑っているが、状況がおかしいのは誰が見ても明らかである。二人の父親と母親が今どこにいるかは知る由も無いが、こんな夜中にこんな場所にいるというのは不自然過ぎる。


「お、おい、しっかりしろよ!」

 ムチャがそう言ったその時、木の陰から新たな人影が現れた。その人物を見て、ムチャも先程の二人と同じようにあんぐりと口を開ける。それは、そこにいるはずのないムチャのよく知った人物であった。

 木の陰から姿を現した人物は厳かに口を開く。


「真夏の砂漠とかけて、愛弟子との再会と解く」


 ムチャはその人物の謎かけに、震える唇で応じる。

「そ、その心は……?」

 その人物は静かな声で答えた。


「日差し無理(久しぶり)」


 そのあまりに無理やり過ぎる答えに、ムチャの手がワナワナと震える。

「そ、その下手クソ過ぎる謎かけ……間違いない」

 そう、彼はムチャの師であり、父であり、兄である人物。


「ケンセイ!!」


 ムチャの驚いた顔を見て、無精髭のナイスガイ・ケンセイはニヤリと笑った。

「よう、元気にしてたか?」

 これには今まで冷静であったムチャもパニックにならざるを得なかった。

「元気にしてたかじゃねぇよ! 何でこんな所にいるんだよ!」

「まぁ、細かい事は気にするな。それより、こんな所にいないで山を下りて飯でも食いに行くぞ」

「飯って……ん?」

「そう、飯だ。いつまでもこんな所にいないで感動の再会を楽しもうじゃないか」

 その言葉を聞いて、ムチャのパニック脳ミソに冷静さが戻ってくる。


「……成る程な、やっぱり俺達を秘宝から遠ざける事が目的か」

 ムチャは何かに気付いたわけではない。ただただ今の不自然な状況を受け入れられないだけである。例え目の前にいるのが本物のケンセイであろうとも、今のムチャの目的は、レオとハリーノと共に秘宝を手に入れる事だ。師との感動の再会は後程ゆっくり楽しめば良い。余程のことがなければ、今山を降りるという選択肢はムチャの中には無いのだ。仮に本物のケンセイであればそれはそれで余程の事であるのだが、この状況でその可能性は限りなく低い。


「あん? なーにを言ってんだお前は。ほら、さっさと行くぞ」

 ケンセイ(仮)はムチャにちょいちょいと手招きをする。しかし、ムチャはそれに従わない。

「なぁ、変化する魔物か幻か知らねぇけど、えらい奴に化けたもんだな」

 ムチャは手にしている剣の先をケンセイへと向けた。

「お前が本当にケンセイだと言うなら、証明してみせろよ」

 ムチャがそう言うと、ケンセイは驚いた表情を見せ、目をパチクリとさせる。そしてスッと目を細め、背負った剣をスラリと抜いた。

「ほぅ、久しぶりに稽古をつけて貰いたいってか。いつからそんな勤勉になったんだ?」

 姿形はもちろん、その口調、台詞回し、言葉遣い、イントネーション、表情、仕草、全てが本物のケンセイに酷似している。例え偽物であろうとも、ムチャは自分が知る中で最も強い人物と対峙する事に恐れを感じた。

「さぁ、来い」

 余裕の笑みを浮かべるケンセイに、ムチャは地を蹴って斬りかかった。

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