トロン、帰る
トロンが宿に戻る頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。部屋の扉を開けると、ムチャは朝と同じようにベッドに横たわっている。
「うーん……プレグ先生……」
何やら不穏な寝言を言っているムチャを、トロンは頬をつついて起こした。
「ただいま」
「トロン……遅かったな」
ムチャはゆっくりと起き上がる。トロンが額に手を当てると、熱はだいぶ下がったようだ。
「色々あったの」
「色々?」
「そう、色々。子供っていいよね」
「ん? あぁ、うん」
そしてトロンはカバンからフルーツスライムを取り出す。
「お土産」
「え!? フルーツスライム! これ……なんで?」
「貰ったの」
ムチャはなぜトロンがフルーツスライムを手に入れられたのかよくわからなかったが、念願のフルーツスライムが食べられたので良しとした。
「あっ」
二人でフルーツスライムを食べた後、トロンは思い出したように紙袋を漁る。そして中から一本残しておいたソンナバナナを取り出した。
「これもあげる」
「バナナ?」
「そう、バナナ」
ムチャはトロンが剥いたバナナを何気なく口に運ぶ。その食感は確かにバナナである、しかし、まるで完熟したマンゴーのような、熟れた柿のような甘さにムチャは驚いた。
「……そんなバナナ」
トロンはそれを聞いて、うんうんと納得したように頷いた。
その頃、アレル闘技場の事務所ではマニラ達による会議が行われていた。事務所内では数人の男達が額を突き合わせ、選手のデータなどが書かれた書類とにらめっこしている。
「やはり今注目の闘技者は例の芸人コンビですね」
「だが、まだたったの二試合だし、ルーキーの域は出ていないな」
「しかし、ソドルとゴドルペア、ポロロとギャロペアを破った実力は本物ですよ」
「次の試合はボチボチの相手をぶつけて、もし勝てればチャンピオンクラスと試合させてみるのはどうだろうか? マニラ、どうだ?」
マニラは目の前にあるカップを口に運ぶと、少し考えて頷いた。
「そうね、あの子達ならチャンピオンクラスと試合しても死にはしないだろうし、それでいきましょう」
「では、次の試合の相手は東から来た武道家のペアあたりで……」
会議はすんなり進むかと思われた。その時。
コンコン
事務所のドアがノックされる。
「入っていいわよ」
マニラが言うと、ドアが開き一人の係員が慌てた様子で駆け込んでくる。そしてマニラに何やら耳打ちをした。
「なんですって?」
係員の話を聞いたマニラは驚きの表情を浮かべ、やがてその目がギラリと輝く。
「……面白いじゃないの」
そしてテーブルをバンと叩いて立ち上がる。
「さっきの話は無し! 芸人コンビの次の対戦相手は」
マニラはたーっぷりと溜めて言った。
「チャンピオンクラスよ」
果たして、ムチャとトロンの次なる対戦相手は!?
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