深夜の騒動
ルイヌの町の外れにある貧民街の宿屋で、ムチャとトロンはため息をついていた。
「プレグの大道芸は盛り上がってたなぁ、やっぱり人目を惹くには色気も必要なのか」
ムチャはチラリとトロンの貧相な体を見やる。
「見ないで」
トロンはサッと体を隠しぴしゃりと言った。
ムチャはボロいベッドにドサリと腰を下ろすと、天井を見上げた。天井の隅にはクモの巣が張ってあり、その中心には手のひらサイズのクモがドーンと鎮座している。
「あのクモ俺達を見張っているのか?」
「きゃー、スパイだー」
二人は再び大きなため息をついた。
ガシャン!
その時、宿屋の外から大きな音がした。
ムチャとトロンはガラスにヒビの入った窓を開けて外を見る。
「待ちやがれ!」
「いや! 来ないで!」
宿屋の裏にある路地を、一つの小さな影と五つの大きな影が駆け抜けるのが見えた。二人には小さな影の方に見覚えがあった。
「トロン、見たか?」
「多分、あの子だった」
「行くぞ!」
二人は窓から飛び出した。
石畳に着地した二人は、影の消えた方へと走り出す。
「光よ」
トロンが呟くと手にした杖が光を発し、その明かりを頼りに二人は影の行方を追う。そして、いくつかの角を曲がった時、そこには惨劇の現場が現れた。
「うぅ……」「痛えよ……」
路地裏の行き止まりには、小さな影を追っていた五つの影の正体である男達が血まみれで倒れていた。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!!」
ムチャが男の一人に駆け寄ると、男は苦しそうに呻き言った。
「バ……バケモノだ……」
男は震える手を動かし、指を指した。その指の先、二階建ての建物の屋根を見ると、そこには月を背負いこちらを見つめる半人半獣の少女の姿があった。闇夜のせいで顔はよく見えないが、少女の背格好はあの時の少女とよく似ている。少女はその緑色に光る目でしばらく二人を見つめると、建物の反対側に飛び降り、姿を消した。
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