深夜の騒動その2

「これで大丈夫」

 トロンの治癒魔法のおかげで、血まみれになっていた男達は無事体力を回復した。

「ありがとよ坊っちゃんと嬢ちゃん、じゃあ、俺達はこれで」

 そそくさと立ち去ろうとする男達の一人の肩を、ムチャの手ががっしりと掴んだ。

「まぁまぁ、もうちょっと休んで行けよ」

 ムチャはニヤリと笑みを浮かべた。


「で、お前達はなぜあの子を追っていて、あの子はどこに行ったんだ?あの半獣の魔物は何者だ?」

 ムチャは地べたに座り込んだ男を問いただした。

「へっ、助けて貰った恩義はあるが、飯のタネの話だ。簡単に言うわけにはいかねえな」

 男が地面にぺっと唾を吐く。

「じゃあ、もう一度血まみれにしておくかな」

 ムチャはそう言ってスラリと剣を抜いた。

「ひいっ!」

 月明かりを反射する剣の刃を見て、男はズザザと後ずさりをする。


「なーんて物騒なことは俺は言わない。トロン、やれ」

 ムチャが剣を収め、トロンが杖を振ると、杖の先端から放たれた光の縄が、シュルシュルと男を大の字に縛り付けた。

「俺達は芸人だからな。人を笑顔にするのが仕事なんだよ」

 ムチャはそう言うと男の靴を脱がせた。

「笑うって良いことだよな?」

 そして指先で男の足裏に触れると、わしゃわしゃと素早く動かした。

「ギャハハハハハ!!」

 男はたまらず笑い出し、身をよじって暴れる。しかし、トロンが出した魔法の縄はビクともしない。

「そうかそうか楽しいか、で、言う気にはなったか?」

 男は笑いながらもムチャの問いかけに答える。

「ギャハ、ふざけんなギャハハ、ボケハハハハハハハハハ」

 男の意志はまだ折れていないようだ。


「そうかぁ、悲しいときは人に親切にできないものな。もっと楽しい気持ちにさせてやろう。な、トロン」

 トロンが頷き、再び杖を振ると、光とともに空中に沢山の羽箒が現れた。羽箒達は縦横無尽に動き、男の体のあちこちをくすぐる。

「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 耳、首、脇、鼻、ヘソ、足の裏を同時にくすぐられ男は悶絶する。


「げひゃ!わかったひゃひゃひゃひゃ!言うひゃひゃひゃひゃ!!言うからぁー!!!!」

 数分の拷問の後、男の心はついに折れた。トロンは杖を掲げ羽箒を消す。

「まず、お前達は何者だ?」

 ムチャが男の胸ぐらを掴んだ。

「お、俺達はただのゴロツキだよ」

「見た目通りだな。次に、なぜあの子を追っていた?」

「あいつがメシのタネになるからだよ」

「詳しく聞かせろ」

「わかんねぇのか?あのガキの正体があの魔物だよ」

 今度は男がニヤリと笑った。

「あのガキはウルフマンと人間の間に生まれたハーフなんだ。ただの獣人ならともかく、人間と獣人のハーフは珍しい。あいつを見世物小屋に売り飛ばせばいい金になる」

 ムチャは「なるほどな」とつぶやき、男の胸ぐらから手を離した。男はホッと胸をなでおろす。

「親もいねぇ貧民のガキだし、人間じゃねぇなら攫って売り飛ばしても問題はねぇだろ? あんたら腕がたつみたいだし、俺達と組んであのガキを捕まえようぜ」

 男はより一層下卑た笑い顔を浮かべた。

「トロン」

 ムチャが言うと、トロンは頷いて再び杖を振り、先ほどの羽箒が空中に現れた。

「ちょ! 話が違……ギャハハハハハ!!!」

 貧民街の路地裏に男の笑い声は一晩中こだまし続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る