サキュバスパンデミック18

 ケセラに夢から放り出され、ムチャは学園長室で目を覚ます。

「ふぅ、どうやらうまくいったようだな」

 そう言って、汗をぬぐいながら爽やかに起き上がったムチャの両頬に、強烈な二連ビンタが飛んだ。その威力に再び気絶しそうになりながらも、なんとか踏みとどまる。

「痛ってぇ!! 何するんだよ!?」

 ビンタを放ったのはもちろん、危うくムチャに貞操を奪われそうになった二人である。

「最っ低です!! ムチャさん最っ低です!!」

「やらせはせん! やらせはせんぞ!」

 二人は少し、いや、かなり怯えながら、ムチャに対してファイティングポーズをとっていた。


 ここでムチャの名誉のために、ムチャがなぜあのような奇行に走ったか説明しよう。


 まず、ムチャはあの夢の中から抜け出したかった。ケセラの見せた夢はとても幸せな夢ではあったが、覚めぬ夢でも幸せならべつに良いと思えるほど、ムチャはドリーマーではなかったし、現実世界でプリムラを倒せば、ケセラを苦しみから解放できるのではないかと考えていた。


 しかし、ケセラはムチャがトロンかケセラを選ぶまで、きっと解放してくれなかったであろう。もしケセラを選んでも、きっと三人仲良く永遠に夢の中だ。ではトロンを好きと言えば良いのかと言われればそうでもない。トロンを好きというのも恥ずかしすぎて嫌だし、無理して言ったところで、ケセラはムチャが無理している事をあっさり見抜き、解放してくれないかもしれない。そこでムチャは思いつく。


「そうだ、逆にケセラが自分をここから追い出したくなるようにすればいいんだ」と。


 女の子に嫌われる方法は簡単だ。ケダモノになれば良い。しかし、ケセラの場合はちょっと乳や尻を触ったところで、「いやーん、ムチャさんエッチ」で済まされてしまう可能性がある。むしろ喜ぶかもしれない。ケセラから嫌われるには、本能的に恐れる程のケダモノにならねばならない。もっと大胆に、もっと激しく、もっと恐ろしく。だが、ピュアボーイムチャにはそれは難しい。


 そこでムチャは、感情術で性欲を活性化し、逆に理性を押さえ込んだ。そしてケセラを襲い、トロンをひん剥き、見事に夢から脱出したというわけだ。


 ただ、この作戦には副作用がある。

 二人の乙女から確実に嫌われる。

 しかし、背に腹はなんとやらだ。ムチャは漢であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る