サキュバスパンデミック5

 すぐ背後に迫るサキュバス達に追いつかれそうになりながら、ムチャはようやくたどり着いた旧校舎の扉に飛びついた。そして素早く扉を開けると、他の三人と雪崩れ込むように玄関ホールに飛び込む。すると扉はひとりでに音を立てて閉まった。サキュバス達は校舎に張られた結界のせいなのか、ムチャ達が飛び込んだ扉を揺らしてはこない。


「何事なの?」


 扉の前に、スーッとヨチが姿を現わす。扉を閉めたのは、学園内の異常を感じて扉の前で外の様子を伺っていたヨチだったのだ。

「ちょっと……待って……息を……」

 数分後、息を整えたムチャは、ヨチに今学園内で何が起こっているのかを、カクカクしかじかと説明する。当然ながら、ヨチは信じられないといった表情を浮かべて驚いた。


「でもよぉ、最近魔物達が活発になってるとは聞いた事あるけど、なんであんな奴らがこんな辺鄙なところにある学校を狙って来たんだ? 明日はせっかくの学園祭だっていうのに」

 そう言ったのはレオである。


 それを聞いて、ムチャとトロンはしょんぼりと頭を垂れ、その場にいた一同に自分達が成り行きから新生魔王軍と戦い、彼らに目をつけられている事を話した。


「つまり、二人がこの学園にいるからあんな事になったと?」


 ムチャとトロンは正座をし、床に手をつけて深々と頭を下げる。いわゆる土下座である。二人はケセラの告白の後で一度は学園を離れようと考えたが、結局学園に残ってしまった事を深く後悔していた。まさかここまで大事になるなど予想だにしていなかったのだ。


 レオとリャンピン、そしてヨチは三人で顔を見合わせ、頭を床につけているムチャとトロンを見る。二人は三人からの罵倒を覚悟していたが、誰も二人を罵りはしなかった。


「いや、凄くね?」

「「え?」」


 二人が顔を上げると、三人は驚いたような顔で二人を見ていた。


「だってよ、その新生魔王軍の凄い奴を二人も倒したんだろ? それって結構凄くねぇか?」

「うん、二人とも只者じゃないと思ってたけど、そんなエキサイティングな旅してたんだ」


 実際は魔王軍だけでなく、心神教の過激派からも命を狙われたりしているのだが、それは今言う必要は無いので言わなかった。


「怒らないのか? せっかくの学園祭が俺達のせいでめちゃくちゃに、いや、もっと大変な事になったのに」

 ムチャの言葉にレオは首を横に振る。

「いやいや、別に悪いのはお前らじゃないだろ!」

「そうだよ! 悪いのはあのプリムラとかいうエッロい感じのサキュバスでしょ?」

「それに、もしサキュバスに捕まっても、永遠にエロい夢が見れるなら、俺は後悔しねぇ!」

「それはあんただけでしょ!」


 リャンピンの拳骨がレオの頭に炸裂した。

 そんないつもの様子の二人を見て、ムチャとトロンは目を潤ませる。


「お前ら……」

「優しい……」

 レオとリャンピンは、それぞれムチャとトロンの手を取って立ち上がらせる。


「マジな話さ、この騒ぎが例えお前のせいだとしても、別に怒ったりしねぇよ。俺達は男子寮の秘宝の試練を乗り越えた仲間じゃねぇか」

「……レオ。気持ちは嬉しいけど、この二人の前でそれを言うのはマズイ」


 レオがリャンピンとトロンを見ると、二人はそれはそれは冷たい目でレオを見ていた。

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