謎の商人、再び2
「でっひゃっひゃっひゃっ!」
けたたましい笑い声を聞いてムチャが目を覚ますと、そこには魔法の羽箒で足の裏をくすぐられている商人と、杖をくるくると動かしているトロンがいた。
「起きた?」
トロンは杖を動かしながらムチャに声をかける。ムチャはふらふらとしながらも起き上がった。
先程ムチャが食べたパンには即効性の睡眠薬が仕込まれていたようだ。
「うーん……この野郎やってくれたな……」
ムチャは笑い転げる商人を見ながらポキポキと指を鳴らす。
「久々にムチャとトロンの爆笑スペシャルクイズ大会でもやってやるか?」
「この前考えた技の実験台にでもする?」
商人は足裏をくすぐられて爆笑しながらも、目の前にいる二人が物騒な事を考えている事はわかった。このままでは何をされるのかわからない。
「お、お二人とも! どうか! どうかお許し下さいまし!」
「いーや、さっきのパンでお前が反省しない奴だという事はよーくわかった。死ぬ程笑わせて闘技場の壁にパンツ一枚で貼り付けにしてやる」
「ひぃー! 御勘弁を! 私には養わなければいけない家族がいるのです! 年老いた祖母と、病気の父と、身重の妻と、幼い弟と妹と、ペットのポチと、怪我で働けない従兄弟がいるんです!」
それを聞いてムチャとトロンはふと考えた。足をくすぐる羽箒が動きを止める。
「そりゃあ、大変だな」
「そーなんですよ!」
商人は激しく首を縦に振る。
「よし、わかった。もう二度と詐欺をしないのなら許してやる」
「本当ですか!?」
「ただし、お前の家族をもう一度言ってみろ」
「え?」
「さっき言ったお前の家族だよ」
「えーと……年老いた妹と、病気のペットと、身重の祖父と、幼い母と、父のポチと、怪我で働けない弟……だったかな?」
「さっきと全然ちがうじゃねぇか!」
「すいません嘘つきましたぁ!」
「こりゃダメですな裁判官」
「強制爆笑陣の刑に処す」
トロンが杖で地面にグリグリと魔法陣を描き始め、ムチャは黄色いオーラを体から立ち上らせる。それを見て商人は言った。
「ま、待って下さいよ! 今一度チャンスを!」
「そんなものはない」
「そこをなんとか!」
「なんとかならない」
「パンの代金以上の価値のある、良いものをあげますから!」
「「良いもの?」」
良いものと聞いて二人がピタリと動きを止める。この二人、案外物欲に弱いのだ。
「そう、良いもの」
「良いものってなんだ?」
すると、商人はカバンをゴソゴソと漁り、あっという間に店が開けるほどの様々な道具を取り出した。
「この中から何か好きなものを差し上げます!」
「好きなものって言われてもなぁ……こんだけ沢山あると何が何やら……」
「この瓶は何?」
トロンが液体の入った小さな瓶を指差す。
「これは先程坊ちゃんが食べたパンに仕込まれていた睡眠薬です。即効性で効きは早いですが、長続きはしません」
トロンが瓶を返すと、今度はムチャが貯金箱らしきものを手に取る。
「これは?」
「それは無敵の貯金箱です。満杯になるまで絶対に壊れない呪いがかかっているので、貯金の途中で欲望に負けて、ついつい開けてしまうことがございません」
「ふーん……」
ムチャが試しに貯金箱を思いっきり壁に投げつけてみると、貯金箱が壁にめり込んだ。貯金箱は踏みつけても剣を叩きつけても壊れない。
「これ本物だ! でも、いらねぇなぁ……」
二人が商人にあれこれあれこれ尋ねてみるが、今一ピンとくる商品は見つからない。
「やっぱりゴールドで返してくれよ」
「いや、しかし私は今手持ちが……」
その時、トロンは商人のカバンにジャラジャラと付けられている何かを見つけた。筒状のキーホルダーのようであるが、何やら小さな穴が空いている。
「ねぇ、あれはなぁに?」
「ん? あれか、あれは子供のおもちゃだよ。一つ五百ゴールドもしないものさ」
「どんなおもちゃなの?」
「それは……」
商人は二人に、カバンに付けられているキーホルダーの説明をした。
それを聞いたトロンはムチャの目を見て頷く。そして言った。
「あれ、あるだけちょうだい」
「へ? まぁ、あれでいいなら……」
商人は筒状のキーホルダーをジャラジャラしながら去っていく二人を見ながら首をかしげた。
「あんなもの何に使うんだ?」
それは、ムチャとトロンのみぞ知るところである。
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