ライブの日7
ムチャが病院を飛び出してから何時間過ぎたであろうか。手術室の床にはトロンに魔力を与え尽くした数人の医療魔術師達が膝をついていた。彼等の周りには魔力を回復させる高価な薬のビンがゴロゴロと転がっている。
しかし、ソドルとトロンは未だに手術室の中心に立っていた。
「……くっ」
二人の顔は魔力と体力の枯渇で徐々に青ざめ始めている。
「もういい、もういいトロンちゃん、このままでは君が死んでしまう!」
二人を見守るしかできないゴドラはそう言って唇を噛み締めた。意識が朦朧とする中、ゴドラの言葉を聞いたトロンはゆるゆると首を横に振る。
そして言った。
「病気の友達を助けたいお笑い芸人と掛けまして、湿気で固まった鳩の餌と説きます」
ゴドラ一家は顔を見合わせる。
「そ、その心は?」
トロンは苦しげながらもニヤリと笑った。
「撒けない(負けない)」
本人は満足しているようだが、手術室の気温は僅かに下がった。
「ぐっ……」
ソドルが呻き声を上げ、その巨体がグラリと揺らいだ。これはトロンが滑ったせいではない。ソドルも他の医療魔術師と同じように魔力を与え尽くしてしまったのだ。限界まで魔力を使い果たしたソドルは、フッと意識を失い前のめりに倒れる。倒れる時にソドルの巨体がトロンの背中にぶつかった。
「あっ!」
フラフラなところにソドルの巨体がぶつかり、トロンもソドルと一緒に床に倒れこんでしまう。そして倒れた時に杖を手放してしまった。
ガラン
手術室の床に杖が転がり、室内を照らしていた魔力の光が消える。するとこれまで眠ったように大人しくしていた患者達が急に苦しみ始めた。
「いけない」
トロンは杖に手を伸ばし、杖を支えに立ち上がろうとしたが、体力も気力も限界が近く体が動かなかった。
「まだ、まだだよ……」
トロンが奥歯を噛み締めたその時である。
ドガッシャァン!!!!
病院の一階からまるで馬車が扉をぶち破ったかのような破壊音が聞こえた。そしてドタドタドタドタと複数の足音が手術室へと近付いてくる。
手術室の扉が勢い良く開くと、そこにはムチャと、怯えた顔をした王国医師団がいた。
「おまたせぇ!!」
ムチャはそう言うと床にベチャッと伏せているトロンに親指をグッと立てた。
トロンも弱々しく親指をグッと立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます