ライブの日6

「GO!! GO!! GO!!」

 馬車の荷台から顔を出し、ムチャはエキサイトして叫び続けている。感情術はとうに解けていたが、ミモルの命がかかっているだけにムチャは急かさずにはいられなかった。

「ムチャ! 無理を言うな! 馬が潰れるぞ!」

 馬車のすぐ横にはナップを乗せたアルバトロスが並走している。

 オークの群れを撃退してから早一時間以上、日は西に傾き始めており、夕陽の色が尚更ムチャを焦らせた。

 沈みゆく夕日を追うように、馬車は止まることなく走り続ける。


 その頃闘技場ではムチャとトロンが戻らない事によってパニックが起きていた。

「ちょっとぉ! 主役の二人が来ないってヤバいじゃないのぉ!!」

 闘技場の事務所にいるマニラは珍しく動揺し、親指の爪をガリガリと齧っている。スタッフも総出で二人の姿を探している。

 すると、一人のスタッフが事務所に入ってきた。

「マニラさん、もう客入れ終わっちゃいましたよ! 開演時間です!」

「わかってるわよ! でもあの二人が来なきゃ何も始まらないじゃないの!」

「今朝のステージチェックにはいたんですよね? どこに行ったか知らないんですか?」

「ちょっと出てくるとは言ってたけど、どこに行ったかなんて知らないわよ! てっきり公園でネタ合わせでもしてくるのかと思って詳しく聞かなかった私もバカだけど! だれがバカオカマよ!」

「言ってませんよ! あの二人、本番が怖くて逃げたんじゃないですかね?」

「あの二人がそんなことするはず無いでしょう!」

 マニラは、連日の稽古と打ち合わせで疲れているはずなのにいつも目をキラキラさせていた二人の顔を思い出す。

「あの子達がこのライブをどれだけ望んでいたと思っているのよ……」

 その時、事務所の扉が開き複数の人影が現た。

「話は聞かせてもらったわ」

 そこに立っていたのはプレグとニパ、そしてポロロとギャロのコンビであった。ニパはなぜかちょっとカッコつけたポーズを取っている。

「あなた達……」

「スタッフがドタバタしているから何かと思えば、あいつらやっぱりやらかしてくれたのね」

「全くよ! 始めてこの闘技場に現れた時を思い出すわ!」

 マニラとプレグは大きくため息をついた。

「とにかく、私達が場を繋ぐから、あなた達は全力であの二人を探して。あいつらの前座なんて癪だけどね」

「ありがとう。ギャラは弾むわよ」

 プレグの提案にマニラは力強く頷く。

「なぁーんで俺達があいつらのためにそんな事せにゃいかんのだ」

 ポロロは空気を読んでギャロの口を塞いだ。



 闘技場の客席の最前列には、カリンとイワナ、そしてコランが仲良く並んで腰かけていた。

「いやぁ、彼等のお笑い楽しみだね」

「そうね、どんなネタを見せてくれるのか楽しみね」

「ママァ、バナナお姉ちゃんまだかなぁ」

 コランがカリンの袖を引いた。

「あははは、だからバナナお姉ちゃんじゃなくてトロンちゃんだってば。それにしても中々始まらないわね」

 カリンが闘技場備え付けの時計を見ると、既にライブ開始の時間を五分程過ぎていた。

「きっと小道具でも無くして探しているんだろう」

 惜しい、探されているのは主役の彼等であった。

 コランは退屈そうに辺りを見渡し、カリンの胸元にぶら下がっている金属の筒状のネックレスに目をつけた。コランはネックレスに手を伸ばしてカリンに問いかける。

「ママ、これなぁに?」

「これ? バナナお姉ちゃん、じゃなくてトロンちゃんから貰ったのよ」

「パパも同じの付けてる」

 コランが言う通り、イワナの胸にもカリンが身につけているものと同じネックレスがぶら下がっていた。

「僕も欲しい」

 指を咥えるコランの頭を、イワナは手を伸ばして優しく撫でる。

「コランがもう少し大きくなったらあげようかな」

 その時、闘技場内の照明が暗くなり、リング上に設置されたステージのみがライトアップされた。

「ほら、始まるぞ」

 主役不在の中、夢のステージが幕を開けようとしていた。

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