ライブの日5

 アレルの街の東門を出てから約二時間、二人の人間を乗せて数十キロもの距離を駆け抜けたアルバトロスの疲労がピークに達しようとしていた時、ムチャの目に停車している一台の大型馬車が映った。

「あれか!!」

 しかし、馬車はただ停車しているわけではなかった。馬車の周囲を直立した豚のような魔物「オーク」の群れが取り囲んでおり、白衣を着た数人の魔法使い達が馬車に結界を張ってオークの進入を拒んでいる。馬車はオークの群れに襲われて立往生していたのだ。

「ナップ!」

「あぁ!」

 アルバトロスがオークの群れに飛び込み、数体のオークを蹴散らした。それと同時にムチャとナップは剣を抜き、アルバトロスから飛び降りる。そしてアルバトロスの乱入に混乱しているオーク達に斬りかかった。

「怒の剣……憤怒衝!!」

 ムチャが大地に突き立てた剣から赤いオーラが迸り、数体のオークを吹き飛ばす。

「喜の剣……狂喜乱舞!!」

 ナップは腕に黄色いオーラを纏わせて、凄まじい速さで剣を振るい、オーク達を斬りつけてゆく。

 二人は各々の感情術と剣技を存分に発揮し、あっという間にオークの群れを撃退した。

「あんた達、王都から来た医者か!?」

 ムチャが馬車に近付くと、結界を張っていた白衣を着た魔法使いの一人が頭を下げた。

「君達助かったよ! なんとお礼を言えばよいか……」

「王都から来た医者かって聞いてるんだよぉ!!」

 怒の感情術の影響で、ムチャの顔は鬼の様な形相になっていた。

「は、はい、そうです」

 魔法使いが頷くと、ムチャは顔を真っ赤にして、来た道を指差して叫ぶ。

「はーやーくーいーけー!!!!」

 ムチャの気迫に怯え、魔法使い達はドタバタと出立の用意を始めた。


「辛そうだな……」

 ゴドラは、杖を握り締めて感情魔法を使い続けるトロンを祈る様に見守っていた。トロンの額には大粒の汗が浮かんでおり、呼吸も荒くなってきている。それは慣れない魔法を四人同時に数時間もかけ続けているのだから無理のない事であった。

「ムチャ……」

 トロンは誰にも聞こえぬ程の小さな声で呟く。

 トロンの魔力は既に残り少なく、意識が朦朧とし始めていた。

 その時、手術室の扉が開き、どこかに出ていたソドルが戻ってきた。ソドルは背後に数名の医療魔術師を従えている。

「院内の医療魔術師をかき集めてきた。彼女一人に任せるわけにはいくまい」

 ソドルを含む医療魔術師達はトロンの背に手を添えると、精神を集中してトロンに魔力を送り込み始める。すると辛そうだったトロンの表情が僅かに和らぐ。

「きっともう一息だ。ムチャ君を信じよう」

 その場にいた一同は皆小さく頷いた。

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