ライブの日8

 手術室に到着した医師団は、すぐさまミモル達の治療を開始した。そして彼等はトロンや倒れていた医療魔術師達に魔力と体力を回復する薬を飲ませてくれた。

「トロン、大丈夫か?」

 ムチャが廊下のベンチに腰掛けているトロンに語りかけると、トロンは一息ついて力強く頷く。

「うん。大丈夫」

「いけるか?」

「バリバリだよ。でも、お客さん待っていてくれるかな?」

「わからねぇ、でも、行くしかない!」

 病院の窓から見える景色は既に暗くなっており、ライブの開始時間を大幅に過ぎていることを告げていた。すっかり日が暮れた街並みの先には、二人の夢のステージである闘技場が見える。闘技場の明かりはまだ消えてはいない。

 ムチャがトロンに手を差し伸べると、トロンはそれを掴みベンチから立ち上がる。そして廊下を走り出そうとした。

「待ってくれ!!」

 駆け出そうとした二人を呼び止めた声の主はゴドラであった。

「急いでいる時にすまない。でも、これだけは言わせてくれ」

 ゴドラは巨体を折り曲げ、頭が地面に付くのではないかと思う程に深々と頭を下げた。

「ミモルの命を、ありがとう」

 頭を下げるゴドラに、二人はグッと親指を立てた。

 そして病院の廊下を勢い良く駆け出す。

「ナップが先に闘技場に行って、俺達がもうすぐ来る事を伝えてくれてる」

「ナップが? 何でナップ?」

「色々あったんだ!」

 二人は階段を全段飛ばしで次々と飛び降りてゆく。トロンの飛行魔法で飛んで行ければ良かったのだが、トロンの体力も魔力もまだそこまで回復してはいなかったのだ。だが、お笑いをやる気力だけは二人の体内にグツグツと煮え滾っていた。

 二人は病院の一階まで下り、ロビーを駆け抜け、先程馬車の突入でブチ抜かれた入り口から外へ出る。

 病院の門から街の大通りに出ようとしたその時、二人はメガネをかけた白衣姿の青年とすれ違った。

 全速力で青年とすれ違った二人は、数メートル進むと緩やかに足を止める。そして背後へと振り向いた。

「やぁ」

 二人が振り向くと、青年もこちらを振り返り爽やかな笑みを浮かべている。

 それは最悪のタイミングでの出会いだった。


 よりによって

 なぜ今

 なぜこんな時に


 二人の脳裏に沢山の言葉が浮かぶ。

 二人が青年とすれ違った時、身の毛のよだつような悪寒が走ったのだ。

 それにより二人は本能で悟った。


 『あぁ、こいつがケセラが言っていたヤバい奴だ』


 と。

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