エスペリアの罠
その日の放課後、トロンは校門の前でいつも通りにムチャを待っていた。すると、トロンの前に一人の女教師が現れる。
「あなた、二年生のトロンさんね」
女教師がトロンに声をかけると、トロンはコクリと頷く。
「あのー、転入の手続きで不備があったから、ちょっと来てもらえるかしら?」
「不備?」
「そう、不備なの。もう放っておいたらえらい事になる不備なの」
女教師の口ぶりはどこかたどたどしく、明らかに怪しい。しかし、トロンは「わかりました」と言うと、杖に魔力を込めて、校門の前に「先に帰ってて」というムチャへの伝言を込めたミニトロンを生み出した。
「じゃあ、行きましょうか」
トロンは女教師について歩き出す。
女教師は魔法学科の校舎を素通りし、魔法演習場の方へと向かって歩いて行く。
「職員室に行くんじゃ無いんですか?」
「いや……そのー……まぁ、いいからいいから」
訝しげなトロンの質問を、女教師は曖昧に誤魔化した。
先を歩く女教師は、やがて魔法演習場の前に辿り着く。そしてトロンに中に入るように促す。
「さぁ、入って入って」
トロンがそれに従い、演習場の中へと入ったその時。
ピシャン!!
突然甲高い音を立てて、演習場の扉が閉まる。
トロンは振り返り、扉を開けようとしたが、扉は鍵がかかったかのように開かなかった。
扉の外では、変身魔法を解き、女子生徒の姿に戻ったエスペリアの取り巻きがクスクスと笑っていた。
「エスペリア様に逆らうのが悪いのよ」
呼び出しはエスペリアによる罠だったのだ。
扉が開かないので、トロンは仕方なく演習場の奥へと進む。すると、更衣室の方からゾロゾロと女生徒達が現れた。その中心にはエスペリアがいる。
女生徒達がトロンを取り囲み、エスペリアはトロンの前に進み出る。そして薄ら笑いを浮かべて言った。
「ようこそ、トロンさん。『一緒にお茶でもいかがかしら?』」
それはエスペリアが、トロンと初めて会った日に言ったのと同じ言葉である。
「イヤ」
トロンはあの日と同じ答えを返した。
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