エスペリアという少女
トロンの返答を聞き、エスペリアはほくそ笑む。
これまでの学園生活で、エスペリアにNOと言った生徒は数少ない。それは皆エスペリアがベリス王国内でも有数の権力と財力を持つ商人の家の次女である事を知っていたからだ。ただリャンピンだけは遥か東方の山奥出身のために例外ではあったが、リャンピンがエスペリアに逆らったがために中等部第一女子寮では武術学科の生徒達は施設の利用を制限されたり肩身の狭い思いをする事になっている。
更に彼女は魔法の才能と、周りを魅了する美貌も持っていた。その美貌は男子生徒を跪かせ、魔法の才能は他の優秀な生徒や教師達をも黙らせた。
もちろん其れ相応の努力はしているのだが、多角的な力を持つ彼女にとって、この学園で女王を気取る事はちょろかったのだ。
男子生徒も女子生徒も彼女の思うがまま。
しかし、そんな彼女の王国に道化師が浸入してきた。道化師は出会ったその日に彼女にNOを突きつけ、更には前髪をも焼いた。そして数々の嫌がらせにも動じず、人望までも得ようとしている。
エスペリアにとってそれは許せない事ではあったが、少し嬉しくもあった。
まるで四ピースしかないジグソーパズルを解くように、今までの学園生活があまりに思い通りにいくので、彼女は退屈していたのだ。
エスペリアは細めた目で、目の前の道化師が如何程な難易度を持つパズルなのか見定めようとしていた。
「あなた、私に何か言う事はありませんの?」
エスペリアの問いに、トロンは少し考えて言った。
「ヘビ、机に入れたのあなた?」
「私では無いわ。でも、私の意思によるものね」
そう、エスペリアが命じれば、大抵の生徒は皆それに応じるのだ。
「美味しかったよ、ありがとう」
トロンがそう言うと、トロンを取り囲んでいた一人の女子生徒ががくりと膝をついた。
「うぅ……ヘビ助……」
そして立ち上がると、泣きながらどこかに走り去って行く。
「……私に屈するつもりは無いということね」
トロンは状況がイマイチ理解できておらず、首を傾げる。それがエスペリアには酷い挑発のように思えた。
「いいでしょう。ではトロンさん、私と勝負なさい」
(座学の授業中はよく寝ているし、魔法の授業でもめちゃくちゃな事ばかり、出自も不明で、化粧っ気も無くて、貧乳でタレ目で大して色気もないくせに、そんな奴が私の地位を脅かすなんて許せない!!)
エスペリアの中にはメラメラと闘志が燃えていた。なぜトロンを見ているとこんなに苛立つのかはわからなかったが、とにかく彼女は実力で目の前に立つおとぼけガールを排除すると決意する。
「うーん……いいよ」
トロンは少し考えて頷いた。
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