それから一週間
それから一週間、ムチャとトロンは初めての学校生活に戸惑いながらも、グリバー学園の生徒として楽しく過ごした。
ムチャはすっかりクラスに馴染み、その持ち前の明るさと、ひょうきんさと、程々のバカさと、武術の実力でクラスの人気者となっていた。一方トロンは、相変わらずエスペリアにちまちまとした嫌がらせを受けていたが、トロンは全く意に介さなかった。
例えばこんな事があった。
ある日の午前中の休み時間、トロンとリャンピンがトイレに行っている間に、何者かにトロンの杖を隠されてしまったのだ。その日の午後、トロンが素手で魔法を扱ったために、魔法学科の演習場は阿鼻叫喚の地獄と化し、次の時間にはトロンの杖は無事に返ってきた。
またある日は、トロンの机の中に蛇が入れられていた事があった。その日の昼食時間、トロンはその蛇を平然と教室で捌いて食べ、それを見たエスペリア達はその日の昼食が喉を通らなかった。ムチャとの旅の途中で、頻繁に食糧難に襲われていたトロンにとって、蛇はご馳走の部類だったのだ。
さらにある日は、業を煮やしたエスペリアの取り巻き達が、皆の前でトロンのスカートをローブごと捲ろうと事があった。しかし、その日のトロンは寝ぼけてスカートの下にパジャマを履いてきており、皆の前で下着を晒す事は無かった。逆に取り巻き達はトロンの逆襲にあい、旋風魔法によってスカートを捲り上げられて、男子達に大いにサービスをする羽目になった。
エスペリア達にどんな意地悪をされてもめげないトロンを見て、リャンピン以外にも徐々にトロンの周りに人が集まるようになった。トロンと仲良くなりたくて世間話をしにくる者や、部活動に勧誘する者、中にはトロンに魔法についてのアドバイスを貰いにくる者もいた。
そしてトロンの天然ぶりは密かに男子生徒達の心も掴んでいた。思春期の男子生徒達の目には、いつもぼーっとしていて時折ギャグをブチ込むトロンが「物憂げでミステリアスでユーモラスで不思議ちゃんな転校生」に映ったのだ。
それまで中等部の二年生の間で、「付き合いたい女子ランキング」は見た目が美人なエスペリアが一位であったのだが、入学から僅か一週間でトロンが徐々にそれを追い上げてきていた。
それはエスペリアにとって実に面白くない状況であった。
「エスペリア様、あの子何やっても効いてませんよ」
「私なんてあの子のせいで男子達に下着を……もうお嫁にいけません……」
「私のヘビ助が……」
取り巻き達の報告を受け、エスペリアは考える。
そしてしばらく考えた後に決断を下す。
「私が直接なんとかするしか無いようね」
トロンの身に、よく無い事が起ころうとしていた。
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