ナップの回想26

 それから三日後。

 医療魔術師の献身的な治療により、すっかり傷の癒えたナップとフロナディアは、アレルの町に向かうため、ケルナの町の門の前にいた。

 フロナディアの隣にはシャンデリアが、ナップの隣にはフロナディアが用意してくれた栗毛の馬がいる。名前は「アルバトロス」というそうだ。

 二人の前には、ゴディバドフの他に、司会をしていた女性や、係員のおじさん、他にもこれまでナップ達と対戦した数組の闘技者達が見送りに集まっていた。

「気合い入れて行ってこい」

 ゴディバドフはナップにこれまでの試合の賞金の入った袋を手渡す。それはズッシリと重かった。

「さぁ、ナップ様、そろそろ出発しましょうか」

 フロナディアが急かすように言った。

 ちなみにフロナディアは、ナップと旅行に行くと言って屋敷を出てきている。グリームスは「婚前旅行か!」と言って喜んでいたが、ガラの悪い連中に見送りを受けているところを見られてはなんと思われてしまうかわからない。

 二人は見送りの人々に頭を下げ、それぞれの愛馬に跨った。

「行きますわよ、シャンデリア」

「行くぞ、アルバトロス」

 二人が乗馬すると、馬達は仲良く歩き出す。

 二人の背を見送りながら、司会をしていた女性が言った。

「支配人、ちょっと賞金に色付け過ぎたんじゃないのかい?」

「俺は若者達の旅立ちというものが好きなのだ」

 その時、ゴディバドフの背後に歩み寄る者がいた。

「全く、うちの孫娘をそそのかしたのは貴様か、ゴリラドフ」

 ゴディバドフが振り返ると、そこにはリボシーが立っていた。

「なんだ、お前かグリームス」

「最近こそこそしていると思えば、やはり貴様の闘技場に出入りしていたのだな」

「気付いていたのか」

「毎晩屋敷を抜け出して、傷まで作っておれば気付かん訳もないだろう。お前を屋敷の庭で見た者も多いしな」

「止めなくて良かったのか?」

「フロナディアが強さを求める理由はよくわかっているからな。だが、もし大怪我をしたら本気で貴様の闘技場を潰すつもりだったぞ」

「ガハハ、その時は他の町で新たな闘技場を作るさ」

 ゴディバドフは小さくなった二人の背中を見た。

「ああいう面白い奴らがまた出てくるかもしれんからな」


 二頭の馬が平原を行く。

 白馬の上にはお転婆な令嬢が、栗毛の馬の上にはお人好しな剣士が乗っている。

 彼等の旅路の先にあるのは勝利か、はたまた敗北か。それは神のみぞ知る所である。


「ところでナップ様」

「何でしょうか、フロナディア様?」

「受け取ったとおっしゃっていましたが、お返事はいつしてくださるの?」

 お人好しな剣士の胃に、ズッシリと重く、しかし暖かいものがのしかかった。



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