獣達の夜

 トロンとエスペリアが対決した日の夜、ムチャはレオとハリーノと一緒に食堂で夕飯のシャケのホイル焼きをつつきながら談笑をしていた。

「へぇ、じゃあ今日はトロンさんと一緒には帰らなかったんだ」

「あぁ、なんか校門の上に小さいトロンが乗ってて、先に帰っててって言われた」

「他に男でもできたんじゃねーか?」

 レオの言葉を聞いて、ムチャのフォークがピタリと止まる。

「トロンに男ぉ? そんなバカな」

「あれ? ムチャ君知らないの? トロンさん結構モテるんだよ。中等部気になる女子ランキングでもトップ10に入ってるし」

「それ何調べなんだよ。そりゃ気になるっちゃ気になるだろうな。奇行で」

「まぁ、確かにトロンさんは魔法学科の授業でもハチャメチャだからねぇ」

「そういう事だよ。悪目立ちだ、悪目立ち」

 再びフォークを動かし始めたムチャの顔はちょっとだけ不機嫌そうであった。

「何だよムチャ、ハニーちゃんを誰かに取られそうで心配なのか?」

 レオは肘でツンツンとムチャの肩を突く。

「前から思ってたけどそのハニーちゃんってなんだよ。別に俺とトロンはそういう仲じゃ無いからな」

 そう言いつつも、ホイル焼きに入っていたニンジンを見て、いつも嫌いなニンジンをムチャに食べさせるトロンを思い出していた。


 すると、そんなムチャの肩を武術学科の一年先輩であるボンバスが叩いた。

「ようムチャ、ちょっといいか?」

 ムチャがフォークを止めて振り返ると、ボンバスはなにやら真剣な表情をしてムチャを見つめている。只ならぬ雰囲気を感じ、ムチャはフォークを置いた。

「どうしたんすか?」

「いやな、お前もここに来て一週間だ。そろそろ例の度胸試しに参加して貰おうと思ってな」


『例の度胸試し』


 その単語を聞いてレオとハリーノの表情が変わった。

「ボンバス先輩、ムチャ君にはまだ早くないでしょうか」

「しかし彼が優秀だという事は武術学科の三年まで噂は届いている」

「でも……!」

 二人はボンバスになにやら訴えているが、ムチャには何のことやらさっぱりわからない。

「何だかわからないけど、度胸試しなら自信ありますよ」

 ムチャは残ったホイル焼きにフォークを突き刺して丸ごと口に放り込む。ボンバスは「よく言った」と言わんばかりに頷き、レオとハリーノは不安げな表情をしつつも、どこか覚悟を決めた顔をしていた。

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