エスペリアとリャンピン
それはまだエスペリアとリャンピンが一年生だった頃、二人は隣同士の部屋に住んでいた。
ある日、エスペリアが自分の部屋のベッドで寛いでいると、隣の部屋から「ハァッ! セヤッ!」という掛け声が聞こえてきた。
「確か隣の部屋は武術学科の特待生でしたわね」
夜中であったので、エスペリアが注意をしに行こうと立ち上がったその時である。
バゴォン!!
エスペリアの部屋の壁が内側に砕け、大きな壁の破片がエスペリアの後頭部に直撃した。瓦礫の角がクリティカルヒットしたエスペリアは、激痛のあまり頭を抱えて床を転げ回る。
すると、壁に空いた穴からリャンピンがひょっこり顔を出した。
「あーっ! ごめんごめん! 稽古に夢中になっちゃってつい。大丈夫?」
部屋で武術の型の練習をしていたリャンピンは、勢い余って壁に掌底を打ち付けてしまったのだ。それが壁を貫通し、吹っ飛んだ壁の破片がエスペリアに直撃したというわけだ。
エスペリアは涙目になりながら起き上がって叫んだ。
「何してくれますの!? このバカ団子!! コブになったじゃありませんの!!」
怒りに任せたエスペリアの言葉に、リャンピンの方もカチンとくる。
「バ、バカ団子!? 謝ってるのにそんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「これだから野蛮な武術学科の生徒は嫌ですのよ! あなたみたいな人は男子寮に行ったらよろしいんじゃなくて!?」
「野蛮ですって!? 確かに私が悪かったけど、あなたにそこまで言われる謂れは無いわよ! このヒステリーコロネ!」
「ヒステリーコロネぇ!? 縦ロールバカにするんじゃ無いですわよあそばせわよ!」
以下略、あとはもう売り言葉に買い言葉であった。
「くだらない……」
トロンはげんなりとした顔で呟く。
「今思うとそうですわよね……」
トロンのストレートな意見を聞いて、エスペリアも反省したようだ。
「じゃあ、仲直りしないとね」
「え? 私とリャンピンが?」
「うん、これがいい機会だよ」
トロンに言われると、エスペリアは何も言えなかった。ただ、少し戸惑いながらコクリと頷く。
すると、二人の背後から誰かが駆けてくる足音が聞こえた。
「おーい! トロン、今帰り? 一緒に帰ろう!」
それは何という運命のいたずらか、つい今まで噂をしていたリャンピンであった。
近くまで来たリャンピンは、トロンの隣にいる人物がまさかのエスペリアだと気付く。
「げっ! 何でエスペリアと?」
トロンはエスペリアの肩を叩くと、ひそひそと耳打ちをした。
(ほら、今がチャンスだよ)
(でも……)
(仲直りしなきゃ嫌がらせの事許さないから)
(えーっ!?)
トロンに背を押され、エスペリアはリャンピンの前に立つ。しかし、いざリャンピンを前にしてみると中々言葉が出てこない。仲直りというものは幾つになっても恥ずかしいものなのだ。特に、今まで女王様を気取っていたエスペリアにとっては。
そんなエスペリアの背に、トロンは優しく手を添えた。
エスペリアは覚悟を決め、喉から声を絞り出す。
「あの……」
すると、リャンピンは素早く鼻をつまんだ。
「うわ! なんか凄く臭い! エスペリアおならした?」
それを聞いたエスペリアの頭にカァっと血が上る。
「な、な、な、なんですってぇ!!??」
「ぷぷぷ。エスペリアならぬ屁スペリア」
「トロンさん!?」
どうやら、二人が完全に仲直りするにはまだまだ時間がかかりそうである。
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