その日の帰り道

 その後、トロンとエスペリアは演習着に着替え、取り巻き達と別れて一緒に帰る事になった。

 彼女達はエスペリアに無理矢理従わされていたわけではなく、どうやら本当にエスペリアの美貌と魔法の実力に陶酔して付き従っていたらしく、皆の前でゲロを吐いたエスペリアを軽蔑はしなかった。

 そして彼女達は、トロンにしたこれまでの非礼を深々と頭を下げて詫びた。

 別れ際に「エスペリア様をよろしくお願いします。トロンお姉様」、と言っていたのがトロンには気になったが、あまり深く考えない事にした。


 二人は夕暮れの通学路を、エスペリアと話ながら歩いた。

「今まであなたに嫌がらせをしてごめんなさい」

「嫌がらせ?」

「杖を隠したり、机に蛇を入れたり、スカートを捲らせたり、今日だってあなたを騙して……それなのにあなたはゲロまみれの私を」

 それを聞いてトロンは驚いた顔をして立ち止まる。

「あれ、嫌がらせだったの?」

「えぇ、本当にごめんなさい」

 エスペリアはぶたれるのかと思い、覚悟を決めて目を閉じる。しかし、トロンはそんな事はしなかった。

「そういう遊びかと思った」

「え?」

「杖を隠されたのはちょっと困ったけど、蛇は美味しかったし、スカートはムチャに着替えとか見られてるし」

「ムチャ? 確か七組の転校生だったかしら?」

「うん。私の相方なの」

 エスペリアはそれを聞いて、ムチャがトロンの恋人なのかと勘違いをした。

「だから、気にしないで」

 トロンはエスペリアに微笑む。

「それにね、もっと酷い嫌がらせする人もいるし」

「そうなんですの?」

「うん、ライブの邪魔をしたりとか、命を狙ったりとかね」

「命を!?」

 そう、トロンはかつて寺院で共に暮らしていた誰かに命を狙われている。それ故にこの学園に入学したのだ。それに比べたらエスペリア達の嫌がらせなんて、友人同士のじゃれ合いに過ぎない。

 エスペリアが唖然としていると、トロンがエスペリアに聞いた。

「そういえば、エスペリアはどうしてリャンピンと仲が悪いの?」

「え? それは……」

 エスペリアはトロンの過去が気になりつつも、リャンピンと不仲になった理由を語りだした。

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