獣達の夜2

 その後、ムチャはボンバスに一枚の古ぼけた地図を渡された。それは中等部第一男子寮周辺の地図であり、寮の裏手にある裏山の山頂付近に星印が書いてある。


「ムチャ、これは代々第一男子寮に伝わる『男子寮の秘宝』の地図だ」

「男子寮の秘宝?」

「そうだ、これは俺の先輩の先輩の先輩の先輩達から受け継がれている秘宝の地図なのだが、これを取りに行って欲しい」

「なるほど、それが度胸試しですか。でも、そんな昔からある地図だったら、もう誰かが秘宝を持って帰っているんじゃないですか?」


 ムチャのもっともな疑問に、ボンバスはニヤリと笑みを浮かべる。

「そう、かつて幾多もの男子寮生達がこの秘宝に挑み、の先輩方がこの秘宝を手に入れたと聞く。そして、その秘宝は無限の秘宝だったと言われている」

「む、無限の秘宝!?」

「俺達の世代は誰一人としてこの秘宝を手に入れる事はできなかった。だから、ムチャ、お前達の世代にこの地図を託す」


 いつの間にか、ボンバスの背後には多くの先輩達が立っており、皆熱い視線でムチャ達を見つめていた。

「先輩方……」

 ムチャは正直よくわからなかったが、先輩達の情熱的な視線を受けて胸が熱くなった。そして必ず『秘宝』を手に入れると決めたのである。



 ザッザッザッザッ……


 ムチャとレオとハリーノは、暗闇に包まれた山道をハリーノの杖から放たれる光を頼りに、地図を見ながらひたすら歩いていた。

「度胸試しって言うから一人で行くのかと思ったよ」

「ムチャ君一人だと灯りがないでしょ」

「それにこんな言い伝えがあるんだぜ。『友情こそが秘宝への道を開く』って」


『友情』


 それはムチャのこれまでの人生で無縁の言葉であった。ケンセイとの旅の中では友達ができてもすぐに別れが訪れたし、トロンは友人ではなく相方だ。プレグやニパとの関係も友達とはなんだか違う気がする。

 だからムチャは、同性で同年代の友人ができて嬉しかった。そして友情という言葉はそんなムチャにとってとても甘美な響きであった。

「友情かぁ。いいなぁ」

 ムチャは胸を弾ませながら山道を進む。

 そして、進行方向に看板を見つけた。


『危険・立入禁止』


 看板にはそう書いてあった。

 看板の先には細い道が伸びていたが、今まで歩いてきた道とはなにやら違う不気味なオーラを感じる。

 三人はゴクリと唾を飲んだ。

「……行くぞ」

 ムチャの言葉に、レオとハリーノは覚悟を決めて頷いた。

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