ペチャとポロンの冒険

 ベリス王国の東南部にあるホワン地方の片田舎、グースカ村の南にあるグルンジャの森の中を、剣を背負った十歳前後の年頃の少女と、ボロボロで大きな杖を手にした、少女よりも幾分か幼い少年が歩いていた。


「ポロンおねぇちゃ〜ん、もう帰ろうよぉ〜」

 薄暗く不気味な森の中をズンズンと歩いて行く少女に、半べそをかきながら少女の背後をついてゆく少年が声を掛ける。


「ダメよペチャ! 風邪をひいたお父さんのために薬草を取りに行くんでしょ!?」

 少女は振り返り、少年をきつい口調で怒鳴りつけた。


 少女の名はポロン、そして少年の名はペチャ。

 彼女達はグースカ村に住む姉弟である。

 そして彼女達は今、風邪をひいた父親のために、グルンジャの森の奥地にあると言われている幻の薬草を取りに行く途中なのだ。


「でもぉ、子供だけで森に入っちゃダメなんだよぉ」

「わかってるけど、明日は村祭りなのよ! 風邪治さなきゃお父さんもお母さんもステージに立てないじゃないの!」

「そうだけど……魔物が出たらどうするのぉ?」

 ペチャがオドオドしながらそう言うと、ポロンは背中の剣をスラリと抜いて空に掲げた。


「だーいじょうぶ! 私にはお父さん仕込みの剣技があるんだから。あんただってお母さんに教えてもらった魔法が使えるでしょう?」

「うん。でも、ちょっとだけだよぉ……」

 ペチャは森の様子が怖いのか、その身には大きすぎる杖を、両手でギュッと握りしめる。


「大丈夫だってば。魔物なんて怖くない怖くない! それにお父さんとお母さんが私くらいの歳の頃には世界を旅してたのよ」

「でも、バレたらお母さんに怒られるよぉ……」


 モジモジしてその場を動こうとしないペチャに、ポロンがツカツカと歩み寄る。そしてペチャの頭にゲンコツを振り下ろした。


「男の子がグチグチ言ってるんじゃないの! 怖いんだったらさっさと薬草取って、さっさと帰ればいいじゃない!」


 すると、今まで半泣きだったペチャの目に大粒の涙が浮かび上がる。それを見たポロンは「しまった!」という表情を浮かべた。


「うっ……うぐっ……」


 ズズズズ……


 ペチャの目に涙が溜まるにつれて、ペチャを中心ににわかに風が渦巻き始める。


「おっ……お姉ちゃんが……」

「わわわわ!! 待ってペチャ! ごめん! ごめんてば! ほら、よしよし、よしよーし!」


 今にも泣き出しそうなペチャを、さっきまでとはうって変わってポロンがあやし始める。しかしペチャが泣き止む気配はない。それどころか、目に溜まった涙は更に大きくなり、ペチャを渦巻く風は更に強くなる。


「をねぇちゃんが……」

「ぺ、ペチャ! お願い! 泣かないで! 謝るから!」


「をねぇちゃんがブったーーーー!!!!」


 そしてペチャの涙腺が決壊した瞬間、先程までとは比べ物にならない程の魔力の暴風が巻き起こった。更にはペチャの周りにバチバチと火花まで飛び始める。


「ちょっと! ペチャ! ダメー!!」

 暴風に吹き飛ばされそうになりながら、ポロンは慌ててズボンのポケットを弄る。そしてキャラメルを一粒取り出すと、ペチャの口に放り込んだ。


「うわぁぁぁぁあ!! う、うぐっ……ふぐ……甘〜い」

 するとペチャは泣き止み、口の中でキャラメルをモムモムと転がし始める。そして暴風はあっという間に収まった。


「ふぅ……」

 ポロンは額の冷や汗を拭い、大きく息を吐く。

 ペチャは感情が昂ぶると魔力が暴走してしまう癖があるのだが、甘い物を食べると収まるのだ。


「と、とにかく、何かあったらお姉ちゃんが守ってあげるから、ね?」

「うん、わかった」

 キャラメルを飲み込んだペチャはコクリと頷く。


 こうして二人は、薬草を求めて森の奥へと更に進んで行くのであった。

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