三馬鹿と合同コンパ6

 膠着した息苦しい状況の中、その空気に耐えきれずにレオが口を開く。

「と、とりあえず、会計は済ましたので、どこか場所を移しましょうか……」

 すると、メリッサはフラペとマリーナをチラリと見て立ち上がった。

「うーん、私ちょっとこれから用事あるからごめんね。コーヒー代ありがとう」

 それに合わせたようにフラペも席を立つ。

「私も明日の課題があるからそろそろ帰らないと。それでは、また授業で」

 マリーナはメリッサ達とムチャ達を交互に見比べる。そして恐る恐る席を立つ。

「さ、参謀。すいません。本当にすいません。私もちょっと……」

 マリーナは何度もムチャ達に頭を下げ、トロン達にも挨拶をすると、メリッサ達と一緒に店を出て行った。

 後には唖然とした虚しい男三人組が残される。


「お二人とも御覧なさい。この辺りには犬が出るようね。負け犬が」

 エスペリアはうなだれている三馬鹿を顎で指した。

 三馬鹿はお化けのようにユラユラと歩き、なぜかエスペリア達と同じテーブルに座る。

「ちょっと、負け犬臭いんですけど」

 リャンピンはレオを小突いた。

「あっち行ってくださいまし」

 エスペリアはハリーノの脛を蹴飛ばす。

「ムチャ、どうしたの? ケンカしたの? そうだ、チュートロと遊ぶ?」

 コンパの意味を未だに知らないトロンは優しかった。ムチャはトロンの優しさに、つい泣きそうになってしまう。


 すると、俯いていたハリーノがポツリと呟く。

「エ、エスペリア様」

「何よ」

「僕とデートしてくれませんか?」


 ゴプゥッ!


 あまりに唐突過ぎる発言に、リャンピンが鼻から紅茶を吹き出した。レオとムチャも目玉が飛び出しそうな表情でハリーノを見る。

 当のエスペリアは実に冷ややかな目でハリーノを見ていた。

「あなた、自分が何言っているかわかっていまして?」

 それを聞いて、ハリーノは顔を上げ、カッと目を見開く。

「もちろんです! どうかお願いします! 僕とデートをしてください!」

 硬直が解けたムチャとレオは、ワタワタとハリーノをなだめ始めた。

「待て待て待て! お前どうしちゃったんだよ!」

「ハリーノ、落ち着け! 深呼吸しろ!」

 しかし、ハリーノの暴走は止まらない。

「レオの言う通りだったんだ! 今日のコンパで思い知ったよ! 僕は碌に女子と会話もできないダメ男なんだ! このままじゃ灰色の青春まっしぐらさ! 行動を起こさなきゃダメなんだよ! エスペリア様! 一度だけ僕にチャンスを下さい! 何でもしますから! どうかデートをして下さい!」

 ハリーノの目は血走っており、側から見ると気が狂ったようにしか見えず怖かった。いや、目が血走っていなくとも、ハリーノがエスペリアをデートに誘う事が緊急事態なのだ。

「だから落ち着けって! こんな状況でデート申し込む奴があるか!」

 レオがハリーノの口を塞ごうと手を伸ばす。その手をエスペリアが止めた。

「あなた、ちょっとお黙りなさい。これは私と彼の問題よ」

 場に緊迫した空気が流れる。

 エスペリアは相変わらず冷めた目でハリーノを見ている。その顔が何を考えているのかは窺い知れないが、何やら品定めをしているかのように見えた。

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