家族
「本当だ。俺とソドルは元々王国軍にいてな、俺は兵士であいつは軍医だったんだ」
ゴドラは事も無げに言ったが、二人は開いた口が塞がるまで時間がかかった。
「じゃあ、軍医を辞めてから体鍛えたのか」
「いや、あいつは元々あんなだぞ」
ゴドラとソドルは結果的にムチャとトロンに負けたとはいえ、どちらもあのミノさんとサシでいい勝負をしそうなガタイと風貌をしている。その片割れのソドルが医者だなんてどうにも信じられ無かった。
「まぁ、驚く気持ちはわからんでもない。俺もあいつに初めて治療を受けた時は「治療してないでお前が戦えよ」って思ったしな」
ゴドラはテーブルに置いてある籠からリンゴを取ると、空のグラスの上で握り潰し、ワイルドにリンゴジュースを作った。
「そういえば、君達に家族はいないのか?」
唐突にゴドラはそんな事を聞いた。
「家族かぁ……兄貴みたいなのと、妹みたいなのはいるけど、血の繋がった家族はいないなぁ」
「うーん、弟みたいなのはいる」
二人は互いに顔を見合った。
「弟?」
「妹?」
「俺が兄貴だろ?」
「私がお姉ちゃんだよ?」
「いやいや、それは無いだろ。トロンは食いしん坊な妹」
「ムチャはお兄ちゃんって感じじゃ無いよ。無茶ばっかりする弟。むしろ息子だよ」
「息子は言い過ぎだろ! じゃあトロンは孫だ!」
「じゃあムチャは従兄弟」
「なんでそっちに行くんだよ! 絶対トロンが妹!」
「トロンは俺の事が好きなんだぞ〜」
「おがぁぁぁぁぁぁあ! それを言うな! トロンが本当に夢の中で言ったんだよ!」
「ケセラに言わせるように頼んだの?」
「ふっざけんなよ! 大体な、トロンは妹だから着替えとかそういうの見ても何とも思わないし!」
「え? 見たの?」
「お前、俺が寝てるからって部屋で堂々と着替えるなっぷす!」
ムチャの頬にトロンのビンタが飛んだ。そのビンタは結構な威力で、ムチャは椅子から転がり落ちる。トロンは素早くマウントポジションを取り、ムチャの頬にベチン!ベチン!とビンタを繰り出し続ける。その様子をゴドラ一家は呆然として見つめていた。
「まぁ、お互いを家族みたいに思ってるって事か」
ゴドラは二人の弟妹喧嘩を見ながら、ワイルドリンゴジュースをぐびっと飲んだ。
ゴドラ家からの帰り道、ムチャは真っ赤に腫らした頬をさすりながら言った。
「覚えてないんだよなぁ」
「え? 記憶飛んじゃった?」
「違う違う、家族の事」
ムチャは何かを思い出そうと星空を見上げた。
「トロンには前も話したけど、俺、ケンセイと出会う前の記憶がさっぱり無いんだよ」
ムチャの中にある最も古い記憶。瓦礫と炎の中でムチャを抱き抱えるケンセイの顔。それは悲しそうでありながら、どこか安心したような顔をしていた。
「もしかしたら、俺にもどこかに家族がいるのかな」
トロンは星空を見上げるムチャの顔を見た。その顔はパンッパンに腫れていた。
「ムチャはいいよね。家族に希望が持てるから。私なんて産まれてすぐにポイッだよ」
「何か事情があったのかもしれないぞ。もしかしたら、どこかの国の王様が愛人に産ませた子供とか!」
「そしたら、私お姫様?」
「そうそう、もしそうだったら俺の事をお抱えの芸人にしてくれよな」
「やだ」
「何でだよ!」
「覗き魔だから」
「だからあれは違うんだって!」
「覗きの罪で、お笑い禁止の刑に処す」
「そんなの死刑より辛い! せめて……せめて一日一度の一発ギャグを……」
「よかろう」
「さすが姫様!」
二人の「罪人と姫様」ごっこは、宿に着くまで続いた。
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