ゴドラ家

「良かったらうちに晩飯を食べに来ないか?」

 ゴドラの提案で、二人はその日ゴドラの家で夕飯をご馳走になる事になった。コモラは二人が家に来る事を嫌がるかと思ったが、ムチャとゴドラが話に花を咲かせているうちにトロンと仲良くなったらしく。

「来いよ! うちの母ちゃんのシチュー美味いんだぜ!」

 と、快く承諾してくれた。

 四人は公園を出ると、闘技場から少し離れた商店の立ち並ぶ通りを抜け、住宅街に入る。その住宅街の角にゴドラの家はあった。

「さぁ、入ってくれ」

 ゴドラはドアを開け、頭をぶつけないように潜ると、二人を家の中に招き入れた。

「あらいらっしゃい! コモラのお友達?」

「いや、俺の友人で、仕事敵だ」

「あらぁ、そうなの? 狭い家だけどとりあえず上がって上がって」

 二人が家に入ると、ザ・母ちゃんという感じの恰幅の良い女性が歓迎してくれた。どうやら女性はゴドラの奥さんらしい。

「あんた、今日の試合勝ったの?」

「負けた。この二人に」

「あらー、じゃあ、あんた達が噂の芸人さん?」

 二人はペコリと頭を下げる。

「だ、旦那さんを笑わせてしまい申し訳ない」

「まだ子供なのにうちの旦那をやるなんて大したもんじゃないの。さぁ、こっち来て。ごはん食べてくでしょ?」

 どうやら奥さんはゴドラ以上にさっぱりした性格らしい。

 二人は食卓に案内され、二人がテーブルに着くと、ろくに挨拶をする暇もなく洗面器サイズの器に注がれたシチューがドン!と目の前に出された。

「あんた達も闘技者だったら沢山食べないとね!」

 目の前にある器からは、なんともいえないシチューの美味しそうな香りが漂ってきて、二人の鼻腔と胃袋を刺激する。二人の喉がゴクリと鳴った。

 二人とゴドラ一家は声を揃えて「いただきます」と言うと、洗面器シチューをスプーンで口に運ぶ。

「うまい!」

「美味しい……」

 二人にとって家庭の味というものは縁が無かったが、そのシチューはどこか懐かしい味がした。二人はスプーンを何度も口元と器の間で往復させ、あっという間に器を空にすると、ついにはおかわりまでしてしまった。そしてその日、ムチャは嫌いなブロッコリー、トロンは苦手なニンジンまで残さず食べた。それ程そのシチューは美味しかったのだ。



「でな! その時父ちゃんがグアーってやって、ソドルがその隙にガーってやったんだよ!」

 食事が終わり、満腹になったお腹をさすりながら、二人はコモラの語るゴドラの武勇伝を聞いていた。

「コモラ、そこはグアーじゃなくてドギャーだろ?」

「そうだった! ドギャーってやったんだ」

 この親子の会話は非常にアバウトであった。

「で、その月は父ちゃんとソドルが闘技場の人気ランキング三位だったんだぜ!」

 話の内容はよく理解できなかったが、どうやらゴドラが凄いという事が言いたいらしい。

「仲のいい家族なんだな」

 ムチャは何となくそんな事を口にした。

「うん! ウチは家族四人とも仲良しだぜ!」

 それを聞いて、ムチャは首を傾げた。

「四人? 三人じゃないのか?」

「父ちゃんと母ちゃんと、あと妹がいるんだ。今病院にいるけど」

「妹さん、病気なの?」

「うん。なんか難しい病気なんだけど……でももうすぐ良くなるんだ!」

「うちの娘、ミモルっていうんだけどな。数年前まで治療法の見つからなかった難病にかかっているんだ」

「それがもうすぐ良くなるのか?」

「あぁ、この地方の医者じゃ治せない複雑な病気だっていうんで正直諦めかけていたんだが、今この街の近くに王都の優秀な医師が来ているらしい。その医師がこの街に立ち寄って、娘の手術をしてくれる事になったんだ」

「良かったじゃねぇか! でも、よく協力してくれたな」

「あぁ、その医師がソドルの古い知り合いらしくてな。手紙を出して貰ったんだ」

「ソドルさんて何者?」

「医者と知り合いって感じじゃないよなぁ」

 二人はゴドラと同じく長身でマッチョなソドルを思い浮かべた。二人の記憶の中のソドルは「ボコボコにしてやるからなぁ!」などと物騒な事を言っていた気がする。

「そっか、トロン達はこの街の人じゃないから知らないのか」

 ムチャとトロンはウンウンと頷く。

「ソドルは闘技者は副業で、本職は医者だよ」

「「うそぉ!?」」

 その言葉に二人は今日一番驚いた。

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