ゴドラとコモラ
それからムチャとトロンは、闘技場の側にある公園のベンチに腰掛けていた。
「うちの息子が無礼をしたようで申し訳ない」
ムチャに石を投げた少年はコモラといい、ゴドラの息子だったのだ。よくよく見るとコモラはどことなくゴドラに似ている。ゴドラは巨体を折り曲げ、二人に頭を下げた。
「だって、こいつらが父ちゃんに恥かかせるから……」
コモラはゴドラの隣でブーたれている。
「コモラ、この二人は俺とソドルと正々堂々戦って勝った。それだけだ。俺に恥をかかせているのはお前だぞ」
ゴドラはコモラを真っ直ぐに見つめて言った。その声は優しかったが、その言葉の中には確かな厳しさが含まれている。
「あのー……なんか闘技場で会った時と随分性格が違うんだな」
「別人みたい」
ムチャとトロンはリング上のゴドラと、今目の前にいるゴドラのギャップに戸惑いを隠せなかった。ムチャの言葉を聞いて、ゴドラは恥ずかしそうに笑う。
「いやぁ、あれはリング上のキャラクターというか、ああいう振る舞いをした方が客が盛り上がるからな。でも、この前君達のネタの邪魔をしたのは悪かったよ。申し訳ない」
ゴドラは再び頭を下げる。この男、リングの外では随分と腰の低い人物のようだ。
「ネタがあまりウケていないようだったから、あそこで俺達が乱入した方が盛り上がると思ってな、助けるつもりだったんだ」
その言葉は二人の胸にグサリと刺さったが、あの乱入はゴドラなりに考えがあっての事だったらしい。
「いや、そういう理由ならちょっと納得した。でも、あそこから必笑ネタで逆転大爆笑に持ち込むはずだったんだぞ!」
もちろん、そのネタがウケていた保証は微塵もないが。
「ははは、そうだったのか、それは尚更申し訳ない事をしたな」
ゴドラは爽やかに笑う。彼は闘技者としてだけでなく、エンターテイナーとしての心も持っているようだ。
「しかし、前座の芸人だった君達がなぜ闘技者に?」
ムチャは二人が闘技者になるまでの経緯を話した。
「ははは、闘技場でお笑いライブか。君達もマニラも面白い事を考えるな」
「だろ? もし四回勝ち抜けたら……あと三回か。ゴドラも見に来てくれよ。お前もな、コモラ」
「イヤだ!」
コモラはきっぱり言うと、ムチャにイーッと歯を見せつけた。
「こら、コモラ。まぁ、君達ならきっと勝ち抜くだろうな。是非観に行かせて貰うよ。ただし、ライブがつまらなかったらまた乱入するからな」
「そしたらまた爆笑する羽目になるぞ」
「どうせならネタで笑わせてくれ」
「当たり前だ」
二人はニヤリと笑い合う。この短時間で、二人はすっかり仲良くなってしまったようだ。なんとなく気が合いそうという事もあったが、ムチャはゴドラの穏やかだけど歯に絹着せぬ所を気に入り、ゴドラもムチャの芸に対する真っ直ぐさに惹かれたようだ。それからも二人は観客を楽しませる方法や戦闘についてしばらく話し続けた。トロンはコモラと一緒に、公園で遊んでいる子供達に混ざって遊んでいた。
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