勝利の後
「エ〜クセレント!」
ソドルとゴドラを倒したムチャ達が控え室に戻ると、そこに待っていたのはマニラの歓迎であった。
「やっぱりあなた達は私の見込んだコンビだわ!」
マニラは二人の手を取りブンブンと振り回す。
「あれで良かったのか?」
「もちろんよ! 聞いたでしょう? あの拍手の嵐。傷一つ負わずにソドルとゴドラを完封。しかも笑わせて倒すなんて。観客達は思ったはずだわ。これはニュースターの誕生だって!」
「そりゃどうも」
二人はどこか腑に落ちない顔をしていた。二人にとって笑い無しに浴びる拍手というものはいまいち心地よく無いのだ。ソドルとゴドラは気の毒になるほど笑っていたが。
「それじゃ、また来週も頼むわね」
マニラはそう言うと、ルンルン気分で控え室を出て行く。
ムチャとトロンも帰り支度を整え、宿に戻る事にした。
闘技場を出ると、日はまだ高かった。しかも、なんだかこのまま帰るのはもったいないくらいの良い天気だ。
「これからどうする?」
「散歩する?」
「散歩なぁ……どっかの広場か公園でネタの練習しないか?」
「いいよー」
などと相談しながら闘技場の周りをぶらぶらしていると、二人の前に一人の少年が現れた。少年の年齢はニパより少し幼いくらいであろうか、十歳くらいに見える。
「おい!」
「ん?」
ムチャが少年の方を見ると、少年はムチャに向かって何かを投げる。ムチャはそれをあっさりキャッチした。手を開くと、そこにはそこそこの大きさの石があった。
「あっぶねーな! 何するんだよ」
石を捨てたムチャがそう言うと、少年はあっかんべーと舌を出す。
「うるせぇバカ! ヘンテコ闘技者!」
どうやら少年は二人が闘技者である事を知っているようであった。
「なんだと! 俺達は闘技者じゃねぇ、お笑い……」
「いや、闘技者だよ」
「そうだった。俺達は闘技者兼お笑い芸人だ!」
「芸人で食えないから闘技者になったんだろ! このカス芸人! 芸人も闘技者も辞めちまえ!」
「カ……ス……芸人……」
うな垂れるムチャに再び石が飛んで来る。ムチャはなんとそれを口でキャッチした。そして。
ボリボリガリゴリ
石を噛み砕くと、噛み砕いた石の破片を少年に向かってブーっと吐き出した。少年を噛み砕かれた石の粒が襲う。
「うわぁ! 汚ねえ!」
ムチャは少年が破片を喰らうのを見て、歯をむき出しイーッと笑った。旅の中であらゆる物を食してきたムチャの歯とアゴは非常に頑強であった。
「どうだ! これでもカス芸人か?」
ムチャはフフンと少年を見下す。トロンは「全く意味わからない」と思ったけど口には出さなかった。
「ちくしょう! お前らみたいなヘンテコな奴らに父ちゃんが負けるなんて……イカサマに決まってる!」
少年はがっくりと地に膝をつき、地面を叩いた。
「「父ちゃん?」」
二人が頭上にクエスチョンマークを浮かべると、そこに見覚えのある人物が現れる。その人物は膝をついた少年に歩み寄り、声をかけた。
「おいコモラ、待たせたな。何やってるんだ?」
それは先週、そして先程しこたま笑わせた相手だった。
「あれ? 君達は……さっきはどうも」
リング上とは全くキャラの違うゴドラは、ペコリと二人に頭を下げた。
「「どうも……」」
二人もペコリと頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます