一戦目

 ムチャとトロンは係員に連れられ、闘技場の入場口まで来ていた。


「合図するまで待ってろ」


 と、係員が言うと、リングの上で司会者が喋りだす。


「さぁさぁ、皆様お待たせ致しました! それではこれより本日の試合一回戦目を開始したいと思います!」


 観客達が歓声を上げる。その熱気は入場口にいる二人にまで届いた。


「それでは、選手入場です! 青の門、先週このアレル闘技場を混乱に陥れた謎の芸人達、彼等は一体何者なのか!?「最強のお笑いコンビ」ムチャとトロンの入場です!」

「よし、行け」


 係員に背中を押され、二人はリングへと歩みだした。

 入場口を出ると、観客達の歓声が二人に降り注ぐ。


「すげぇ。前座した時とは熱気が違うな」

「そうだね」


 二人がキョロキョロしながらリングに上がると、司会者が二人に拡声の魔法をかける。


「今日がお二人の初試合ですが、意気込みの方はいかがですか?」

「意気込みって言われてもなぁ」

「暑いとちょっと匂いますよね」

「そりゃ生ゴミ」

「香ばしい香りがたまりません」

「そりゃ焼きゴマ」

「えー、ネタを始めないでください。それでは、続きまして対戦者の入場です! 赤の門、先週彼等に屈辱を味合わされた巨漢のコンビ、ソドルとゴドラの登場です!」

「マジか……」


 ムチャ達の向かいにある入場口から、先週見た巨漢の二人がのしのしと歩いてくる。そしてムチャとトロンの前に立った。二人は物凄い形相でムチャ達を睨みつけている。


「てめぇら、先週はよくもやってくれたな!」

「お前らにかかされた恥、今日お前らをボコボコにしてそそいでくれるわ!」

「お前らのせいでネタが最後までできなかったんだぞ!」

「すごく怒られたし……」


 四つの視線が交差して火花を散らす。そこに司会者が割って入った。


「さぁ、リングの上では早くも火花が散っております。果たしてムチャとトロンコンビの実力はいかほどのものか!? そしてソドルとゴドラコンビは雪辱を果たせるのか!? ルールはいつも通り、対戦相手両方が動けなくなるか、ギブアップ、またはリングアウトすれば勝利です。相手を死亡させたら失格になります。それでは、試合の前にまずはボディーチェックと武器の確認が入ります」


 リングの袖から係員達が四人に駆け寄ると、簡単にボディーチェックをした。そして武器の確認に入る。アレル闘技場では、銃火器や刃の付いた武器の使用は禁じられているので、トロンの杖は問題無いが、ムチャの剣はあらかじめ係員に預け、刃を潰した剣を借りている。それは対戦相手の斧使いゴドラも同じであった。全てのチェックが終わり、司会者がリングから下りる。そしていよいよ試合が始まる。


「さぁ、それでは試合開始です!!」


 試合開始のゴングが鳴る。

 数分後、ソドルとゴドラは哀れにもリング上で笑い転げていた。

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