熱血!フェアリーボール!6

 翌日、クリバー学園のフェアリーボールクラブの選手達は、普段の練習の前にムチャとトロンが考えたトレーニングを行っていた。


「「なんでだよ! なんでだよ! なんでだよ!」」

 選手達は円になり、皆一様に「なんでだよ!」を連呼しながら隣の選手の肩を手の甲で叩いている。

 リャンピンはその様子を見て、腕を組んでそれを見守っているムチャとトロンに尋ねた。

「これ、何のトレーニングなの?」

「これは一体感を出すためのトレーニングだ」

 ムチャは全く動じる事なく答える。

「えーっ……本当に?」

「あぁ、選手同士ツッコミを繰り返す事により、お互いの距離感をグッと縮め、息を合わせる事によって阿吽の呼吸が身につくのだ! 多分」

 リャンピンは最後にボソッと付け加えられた「多分」を聞き逃さなかった。

「意味があるようには見えないなぁ……」

 リャンピンはジトッとした目でムチャを見る。

「そんな事は無いぞ。なぁ、トロン」

「全く意味ないよ」

「なんでだよ!」


 スパン!


 ムチャはトロンの肩付近を手の甲で叩く。そのツッコミはコンマ一秒のズレもない見事なツッコミであった。そんな二人のやり取りを見てリャンピンは納得する。

「確かに……凄い一体感がある!」

「だろ? そのうちこいつボケようとしてるなってのが雰囲気でわかるようになる」

「じゃあ、それを極めたらきっと最高のコンビネーションが生まれるのね! でも、結構いい音がしてたけど、トロンちゃん痛くないの?」

「ううん、全然」

 そう、ムチャのツッコミは良い音がするが、絶妙な力加減と手首のスナップにより全く痛くないのである。更にムチャは、女子であるトロンに気を使い、胸に触れないように、肩と胸の間の空間に綺麗に手の甲を当てる技術を持っていた。

「ちょっとリャンピンも受けてみるか?」

 ムチャに促され、リャンピンはムチャの隣に立つ。

「じゃあ、何かボケてくれ」

「うーん、でも、急に言われても……」

「何でもいいよ。お腹すいたー、とか、今日はいい天気だー、とか」

「わかった。じゃあ……来週までに考えてくるね」

「何でだよ!」

 リャンピンからのキラーパスに、ムチャは見事に反応する。ムチャの手が振り上げられ、手の甲がリャンピンの肩にスパンと叩き込まれるはずであった。

 しかし。


 ぽにゅ


 ムチャの手の甲に柔らかな感触が当たる。

「あれ?」

 ムチャがふと手の当たった場所を見ると、手の甲はリャンピンの胸に当たっていた。そう、リャンピンはトロンより背が高くて胸が大きいために、トロンと同じ位置にツッコミを入れたら胸に当たるのだ。

 ムチャは爆弾を扱うかのように、リャンピンの胸からそーっと手を離す。

 次の瞬間、ムチャの顔面にリャンピンから激しいツッコミが入り、ムチャの肩書きは参謀一号から変態三号へと逆戻りした。

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