熱血!フェアリーボール!7
「さて、次は戦略だな」
通常練習を始めた選手達を見ながら、鼻血を止めるために鼻にチリ紙を詰め込んだムチャが呟く。リャンピンの胸に触れてボコボコにされたムチャに、トロンは治癒魔法をかけてはくれなかった。
ムチャは校庭をランニングしている選手達を、昨日リャンピンに貸してもらった選手のデータ表と見比べている。
「えーと……キーパーが一人、アタッカー兼ディフェンダーが五人、マジッカーが四人で後は補欠か」
フェアリーボールでは、キーパーが一人という事を除けば残りの九人を、アタッカー(ディフェンダー)とマジッカーで好きに振り分けてよいルールになっている。極端な話、アタッカー一人を突っ込ませ、マジッカー八人でサポートするという振り分けも有りなのだ。
「こちらのアタッカーはリャンピン含めてみんな人間、となると、相手が獣人を出してくるんじゃ敵わないよなぁ。こっちにニパでもいれば……」
ムチャは以前ケセラの夢の中で見たフェアリーボールをしているニパを思い出した。ニパとリャンピンがコンビネーションを組めば、抜群の攻撃力を発揮するであろうが、残念ながらこの学園にニパはいない。もしいたとしても一時的な助っ人はリャンピンが拒否するであろう。
「いますよ、獣人っぽい子なら」
ムチャが振り返ると、そこにはメガネをかけた女子生徒が立っていた。彼女はフェアリーボールクラブのマネジャーである。
「それって猿顔とか、熊みたいに毛深いって意味じゃないよな?」
「違います違います。ほら、あそこにいる子です」
彼女が指差す方を見ると、ランニングをしている選手達から大幅に遅れてヨロヨロと走っている女子生徒がいた。
「あの子、獣人なのか?」
ムチャが目を凝らしてよく見るが、彼女には獣人らしき部分は見当たらない。ニパのように変身する種族なのであろうか。しかし、変身せずとも獣人は普通の人間よりも身体能力が高いはずなので、ランニングくらいでへばっているのもおかしな話だ。
ムチャがデータ表をパラパラと捲ると、補欠の欄に彼女のデータも記されていた。
「魔法学科一年、マリーナ・ピチョン……半魚人族。って半魚人かよ!」
半魚人は人魚族や魚人族の仲間で有り、水辺で生活をする種族だ。身体的特徴としてはエラがあったりヒレがあったり体表に鱗があったりするのだが、はたから見る彼女はただの運動できない女子だ。おそらく本来水辺で生活する種族なため、陸上での運動は苦手なのであろう。
「でも、ヒレとか無いけど?」
「彼女のお母さんが人魚で、お父さんが魚人なんですけど、両方の人間的な部分だけを引き継いだ子なんですよ。あ、私あの子と寮が一緒で、お風呂で見た時は背ビレがちょっとありましたよ」
ある意味ハイブリッドな少女というわけだ。
「ポジション、マジッカー希望。水魔法が得意。なるほどなぁ。そりゃ半魚人だしな」
期待していた獣人ではなかったため、ムチャは頭を抱える。
「アタッカーはリャンピン頼りとして、やっぱりマジッカーを主体にした戦略を練るしかないか」
ムチャが色々と考えている一方、トロンはランニングをする選手達に檄を飛ばしていた。
「ほらー、もっと気合い入れて走るよー! そんな走りじゃ亀に追いつかれるよー!」
それは全く迫力の無い檄であった。
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