熱血!フェアリーボール!8
部活が始まる前の時間、フェアリーボールクラブの部室にはリャンピンとトロンの姿があった。
「あれからムチャ君来ないね」
リャンピンは部室でお茶を啜っているトロンに語りかける。
「うん、ずっと戦略を考えてるみたいだけど、いいのが浮かばないんだって」
そう言ってトロンはお茶受けのお煎餅を齧った。
ムチャとトロンが作戦参謀になってから一週間が過ぎた。しかし、ムチャは中々良い戦略が浮かばずに、ツッコミトレーニングを導入した日から、フェアリーボールクラブの部室に顔を出していなかったのだ。
相方のトロンは毎日部室に顔を出して、お茶を飲むついでに色々とアイディアを出すのだが、そのいずれもが様々な理由でリャンピンに却下されていた。
例えばこうだ。
「相手のアタッカーを全員電撃魔法で痺れさせるってどう?」
「それは反則だからダメだよ」
「味方全員に身体強化の魔法をかけるのは?」
「身体強化の魔法使えるマジッカーがいないよ」
「いっそ相手チームの飲み物に下剤を」
「人としてダメ!」
こんな具合であった。
リャンピンは深いため息をつく。
「やっぱり無理なのかなぁ……子供がライオンに戦いを挑むようなものだもんね」
そこに、部室の扉を勢いよく開けてムチャが現れた。ムチャの目の周りには深いクマができており、寝ずに戦略を考えていた事が伺える。
タヌキみたいな顔をしたムチャは、開口一番にこう言った。
「できたぞ!」
それを聞いたリャンピンの顔がパアッと明るくなる。
「ムチャ君! 待ってたよ!」
ムチャはリャンピンにグッと親指を立て、片手に持ったノートをテーブルに叩きつける。
「これを見てくれ! ご家庭で簡単にできる究極のカレーの作り方だ!」
ムチャは寝る間も惜しんで戦略を考えるうちに、迷走に迷走を重ねてなぜか美味しいカレーの作り方に行き着いてしまったのだ。
「なんでだよ!」
リャンピンの綺麗なツッコミがムチャの胸に炸裂した。ツッコミトレーニングで鍛えられたリャンピンのツッコミは、それはそれは良い音がしたそうな。
「ゴメン……」
正気に戻ったムチャは、リャンピンに深々と頭を下げていた。
作戦参謀を引き受けたは良いが、結局ムチャにはテキム学園に勝てる良い戦略が浮かばなかったのだ。
頭を下げるムチャを見て、リャンピンは首を横に振る。
「ううん、こちらこそゴメンね。無理な事お願いしちゃって」
戦略が浮かばなかった事は残念であったが、リャンピンはムチャ達が頑張って戦略を考えてくれた事が嬉しかった。
「やっぱり自分達で頑張るよ。戦略が無くても負けるって決まったわけじゃないしね! 協力してくれてありがとう」
リャンピンは腕まくりをして、グッと力こぶを作ってみせる。そして力強い笑みを浮かべた。
明るさと真っ直ぐな心、それがリャンピンの一番の武器なのだ。
しかし、ムチャは悔しかった。くだらない事やギャグはすぐに浮かぶのに、いざとなると戦略の一つも考えつかない自分の脳みそが歯痒かった。
悔しげに下唇をハムハムしているムチャの肩をトロンが叩く。
「ムチャはそんなに思いつめてたらダメだよ。ほら、お笑いでも無理して考えたネタって必死感が出て大体滑っちゃうし」
そのトロンの言葉を聞いた時、ムチャの脳に電撃が走る。
「キュピーン!」
「あ、でた、キュピーン」
「キュピーンって何?」
聞き慣れぬ言葉にリャンピンは首をかしげる。
「ムチャが何か思いついたらたまに言うの。痛い子でゴメンね」
ムチャはトロンのさり気ないディスりにも動じず、キリッとした顔でこう言った。
「至急、部員達を集めてくれたまえ」
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