熱血!フェアリーボール!9

 それから更に一週間が過ぎた。

 今日はクリバー学園内にある運動競技場にて、クリバー学園対テキム学園のフェアリーボールの試合が行われる日だ。

 運動競技場の観客席には、試合を観に来た多くの観客達で賑わっている。観客達はクリバー学園の生徒だけでなく、近隣の町の人々やテキム学園の生徒達もいるようだ。


「いやー、フェアリーボールの試合観戦なんて久々だな」

「うん。基本僕達学園から出ないもんね」

 観客席にいるレオとハリーノは、売店で買ったポップコーンとジュースを口にしながら、試合が始まるのを今か今かと待っていた。

「でも流石に勝てないだろうなー」

「まぁ、リャンピンには悪いけど、うちのクラブそんなに強くないもんね」

 ハリーノは苦笑いして首を横に振る。

「でも、ムチャとトロンが何か手伝いしてるんだろ? あいつらなら何か凄い事しでかすんじゃないか?」

「うーん……でも大丈夫かなぁ。あの二人ってちょっとズレたとこあるから心配だよ」

 二人がそんな事を話していると、そこに取り巻きを引き連れたエスペリアが現れる。

「あら、変態一号二号」

「お、エスペリア。だからその呼び方はやめてくれって!……ん?」

 エスペリアの格好を見て、レオとハリーノは驚いた。

「何よ?」

 エスペリアはクリバー学園チームのユニフォームを着て、手にはメガホンを持ち、顔にはクリバー学園の校章を魔法でペインティングしていたのだ。

 そう、彼女は意外とスポーツ観戦が好きであった。

「あら、あなた達、我が校を応援するのに気合いが足りませんわよ」

 エスペリアはパチンと指を鳴らし、取り巻き達に二人を押さえつけさせると、ペインティング専用の小さな杖で二人の顔中に校章を描き込み始めた。


 その頃、ムチャとトロンはクリバー学園チームの選手達と共に競技場の控え室にいた。

 選手達はムチャとトロン、そしてキャプテンであるリャンピンの前にズラリと整列している。

「みんな、今日までの練習色々大変だったけど、よく怪我もしないでついてきてくれたね。今日こそはテキム学園に絶対に勝とう! でも、怪我はしたらダメだよ!」

「「オー!!」」

 リャンピンが檄を飛ばすと、選手達は声を揃えて返事を返す。

「じゃあ、次は参謀のお二人から」

 リャンピンに促され、ムチャとトロンは前に進み出る。先に口を開いたのはムチャであった。

「諸君、君たちは今まで俺の考えた突拍子の無い作戦とトレーニングによくぞ付き合ってくれた! まずはその事に感謝する。 そして……ZZZ」

 ムチャは話している途中で突如わざとらしく居眠りを始めた。

「「寝るなよ!」」

 すると選手達は一斉にツッコミを入れた。

「あぁ、すまない。ところでここはどこ? 私は誰?」

「「記憶喪失かよ!」」

「思い出した! 卵とネギと牛肉を買って帰るんだ!」

「「今夜はスキヤキかよ!」」

 ムチャが次々と繰り出すボケに、選手達は寸分のズレもなくツッコミを入れる。彼らの一体感は、この一週間で更に磨かれていたのだ。


「いいぞ、みんな! お笑い式トレーニングの効果が出ているな! 後はその成果をフィールドで見せてやれ! エイ・エイ・モー!」

「「牛かよ!!」」


 ムチャの激励が終わり、続いてトロンが選手達に言葉を送る。

「みんなアレかぁ! 気合いバッチリかぁ?」

 トロンがそう言ってアタッカーの男子を指差すと、男子は一瞬の迷いも無く答えた。

「気合いバッチリ、ズボンぴっちりです!」

「それじゃ動きにくいでしょうがぁ! ちゃんとしなさい」

 トロンは次にマジッカーの女子を指差した。彼女も迷いなく返事を返す。

「ハイ! 今夜はちゃんこ鍋にします!」

「ちゃんこじゃなくてちゃんとでしょうがぁ!」

 トロンはツッコミを入れてからウンウンと頷く。

「いいよー、みんないいよー、ボケは裏切りだよ。相手の予測を裏切ればテキム学園はてんてこ舞いのチンチロチンだよー。わかった? みんな返事は?」

「「ハイ! チーズ!」」

 選手達は一斉にカメラを構えるポーズを取る。

「チーズはいらないよ! でもいいよー」


 実は彼ら、ムチャのツッコミトレーニングに合わせて、トロンの考えたボケ式トレーニングも練習メニューに取り入れていたのだ。トロン曰く、「ボケの裏切りを身につければ、相手のテンポを崩せる」との事らしい。

 日常にボケを取り入れた彼らは、最初は半信半疑に適当にボケたりツッコミを入れたりしていたのだが、日を重ねるごとにフェイントや先読みの能力が上達していったのだ。


 しかし、これらのトレーニングはあくまでおまけのようなものだ。大事なのはあの日ムチャが思いついた戦略だ。

 リャンピンはある選手に歩み寄り、ポンと肩に手を乗せる。

「今日勝てるかどうかはあなたにかかっているわ。頑張ってね」

 緊張で体を強張らせているその選手は、なんとあの半魚人の女子、マリーナであった。マリーナはリャンピンの目をまっすぐに見て、唇を噛み締め力強く頷いた。


 それから選手達は皆で円陣を組み、リャンピンの掛け声で気合いを入れる。


 そしていよいよ、試合の時間がやってきた。

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