学園祭前日
それは、よく晴れたある日の事であった。
学園祭を明日に控え、クリバー学園内ではお祭りムードが高まり、教員や生徒達によりあちこちで舞台や屋台の設営が進められていた。
クリバー学園の学園祭では、学年やクラス、学部やクラブ活動毎に強制的に出し物や展示をさせられるシステムではなく、何かやりたい者達が学部や学年の壁を超えて自主的に集まり、申請さえすれば自由に何でもして良い事になっているので、皆いきいきワクワクしながら作業を進めている。
敷地のあちこちでは、野外演劇や楽団の練習をするもの、完成した屋台で料理の試作をするもの、毎年盛り上がる箒レースのコース上に「頭上注意」の看板を立てているものもいる。
クリバー学園は普通の学校とは違い、魔法と武術の教育を軸とした学園なので、その出し物も普通の学園祭とは一味違う。例えば、屋台の定番であるタコ焼きも、魔法学科の生徒が作れば、七色の味が楽しめるレインボータコ焼きになるし、アイスクリームもピカピカ発光するシャイニングアイスクリームになる。また、武術学科の生徒達の引く人力車で学園内を観覧できるマッスルクルーズや、一日武芸体験や、指圧マッサージなども人気だ。ちなみに、武術学科のマッスルクルーズよりも、空から学園内を見渡せる魔法学科の箒タクシーの方が人気である。
他にも、各教室では世界の歴史や亜人や魔物に関する研究や交流の様子を展示していたり、魔法で描いた絵や、剣のみで木を削ったアートが展示してあったりもする。それから、地べたに布を引いただけの露天で自分の書いた小説や戯曲やイラストや手作りアクセサリーを販売するものもいるし、恋人のいない者達を集めて、街コンならぬ学園コンを開催するものもいる。
更に、アンダーグラウンドな部分では、非公式に「学園案内」と称して、内実はレンタル彼女のような商売をする生徒もおり、それがエスカレートして学園祭限定のキャバクラやホストクラブを経営する猛者もいる。そして密造した惚れ薬の販売や、ゴーレム生成の技術で作った学園内の美少女を模した人形を販売する者などもおり、教員達は毎年取り締まりに悪戦苦闘しているのだ。
学園祭の華といえばやはりステージだ。
学園内に複数ある中でも、一番大きな校庭に設けられたメインステージでは、毎年様々な見せ物が披露される。例えば魔法演劇部によるファンタジーショーや、武術演劇部によるアクションショー、合唱部のコンサートや、管弦楽の演奏にバンドの演奏、討論会やスピーチコンテストやミスコンテストが行われる事もあり、例年かなりのオーディエンスで賑わうのだ。
そして、学園祭では使用されない旧校舎の一室に、その学園祭のステージに立とうとしている一組のお笑いコンビがいた。もちろん、ムチャとトロンである。
「こんな学園祭は嫌だ」
「ほうほう、どんな学園祭ですか?」
「
「それは怖いですねー、剥製がいっぱいあったらめちゃくちゃ不気味ですよ!」
「
「それただの田舎じゃないですか! 畑ですよ畑!」
「学園かと思ったら楽園だった」
「死んでるじゃねーか! 何があったの!?」
「舞台かと思ったら豚だった」
「急に雑だな! 何だよ舞台かと思ったら豚って! たいはどこいったんだよ!」
「
「展示物が返事する方が怖いだろうが! 彫刻がヤァとか言ってきたらビビるよ!」
「やぁ」
「お前が言ってどうするんだよ!」
「なんかもうそこら辺に犬のフンが落ちてる」
「それは学園祭じゃなくても嫌だろ!」
「なんかもう、あれ、ドカーンて感じのアレ」
「何だよそれは! だんだん雑になっていくの何なんですか!?」
「校長の開会の挨拶が長い」
「急に戻ったな! そうそう、そういうの嫌ですよね」
「挨拶の最中、突如倒れる校長」
「えっ!? 校長が倒れるの!?」
「校長が目を覚ますと、そこは学園ではなく楽園だった」
「校長死んでるじゃねーか! 怒られますよあなた!」
机などを片付けた教室の中央でネタを続ける二人を、半透明の幽霊少女ヨチが正面から、時折クスリと笑いながら見つめている。ムチャとトロンは本番を明日に控え、当日ステージまで見に来れないヨチに、リハーサルがてらネタを披露していたのだ。
「いい加減にしろ!」
何種類かのネタを披露した後、ムチャがトロンの肩にスパーンとシメのツッコミを入れた。
「と、いうわけでね。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね」
「学園祭も全力で楽しまなきゃ、あっという間に終わっちゃいますよー。そして人生もね……」
「最後のいらねぇだろ! それでは、どうも」
「「ありがとうございました!!」」
二人は観客に見立てたヨチに深々と礼をして、頭を上げる。ヨチはパチパチと小さな拍手を二人に送った。
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