ラウンド2
ムチャはだらりと極限まで脱力し、倒れこむようにカリンへと斬りかかる。その動きは緩やかではあったが、無駄の無い動きであった。カリンは槍を繰り出し応戦するが、ムチャはそれを受けずに躱し、カリンの懐へ入ると、剣を捨ててカリンに抱きついた。そして足をひっかけて、自分ごとカリンを転倒させる。
「のわっ!」
ムチャは何と旦那の前で人妻相手に寝技に持ち込んだのだ。
ムチャは手足をもぞもぞと動かしながら、タコのように、手足を絡ませカリンの体を制圧してゆく。
「このエロガキ!」
その間トロンは防御に徹していた。くんずほつれつしているムチャとカリンの前に陣取り、障壁を張る。イワナからは次々と雷撃が飛んでくるが、トロンの障壁を壊す程の威力は無い。あまりに強い雷撃を撃ち込むと、勢い余ってカリンに当たってしまう可能性があったからだ。
いつの間にかムチャは、足を絡ませ、腕をロックし、カリンの体を後ろからガッシリと抑え込んでいた。
「で? これからどうするつもりだい?」
カリンが全身に力を入れ筋肉を隆起させると、その怪力にズルズルとムチャのロックが外れてゆく。
ムチャはボーッとする頭で考え、「痛快」を解いた。多少回復したとはいえ、後頭部の激痛が蘇る。
「いてててて……」
そして今度はムチャの指先から黄色いオーラが立ち上る。ムチャは深呼吸して気を溜めた。
「喜流し……指撃!!」
そして腕のロックを解き、カリンの脇腹に素早く指を這わせる。
「るっほほほほほほほほほほ!!!!」
ムチャのワキャワキャと素早く動く指先から、カリンの敏感な部分に喜のオーラが流れ込み、カリンの悲鳴とも笑いとも取れる奇声が闘技場に響き渡る。
「これは一体何が起こっているのでしょうか!? ムチャ選手と共に倒れ込んだカリン選手! 突然大爆笑を始めました!」
「カリン!」
トロンが死角になり、何が起こっているのかよく見えないが、イワナは妻の危機を察知し駆け出した。そして杖を槍のように扱い、トロンの排除を試みる。トロンは自らに身体強化の術を掛け、障壁を解いてイワナの迎撃に移る。
カンカンと小気味良い音を立てて、二人の杖が交錯する。
イワナの長身から繰り出される杖術は荒々しくも力強く、身体強化魔法を掛けたトロンでも受けるのが精一杯だ。
「あはははははは!!ふ……ふざけるなぁっ!」
カリンは爆笑しながらも、自由になった腕でムチャの脇腹に渾身の肘打ちを喰らわせた。
「おぶっ!」
そのあまりの威力に、ムチャはカリンを解放してリングをのたうち回る。ムチャのくすぐりから解放されたカリンは槍を拾い、ヨタヨタと仔犬のように立ち上がった。しかし、くすぐりとは想像以上に喰らった人間の体力を奪う。それが喜の技を上乗せされたくすぐりであれば尚更だ。寝技からのくすぐりで大きく体力を削られたカリンは、ゼイゼイと肩で息をした。ムチャも痛みに耐えながら、剣を手に取り立ち上がる。
それを見てトロンとイワナも離れ、互いにパートナーへと駆け寄った。
「カリン、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ。あの子感情術を使うわ」
「感情術か……懐かしいな」
二人は再び武器を構えた。
「トロン、大丈夫か?」
「うん。ムチャこそ、頭大丈夫?」
「めっちゃ痛い。あの奥さんすげー怪力だ」
ムチャとトロンも再び武器を構える。
状況は仕切り直しとなり、第三ラウンドが始まる。
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