関係者席にて
試合が白熱する中、アレル闘技場プロデューサーのマニラは相変わらず目をギラギラさせながら試合の行方を見守っていた。そんなマニラに闘技場関係者の男が声をかける。
「あの芸人コンビ、最強の夫婦相手に思った以上にいい試合をしていますね」
「私が直々にスカウトしたんだもの、もっと盛り上げて貰わなきゃ困るわ」
「番狂わせもあり得ますかね」
それを聞いてマニラはニヤリと笑う。
「あなた、あの夫婦が本気を出していると思って?」
「あの夫婦の実力がこんなものじゃないことは重々承知していますが、カリンの方は復帰一戦目ですし、万が一もあり得ると思います」
「万が一ねぇ……まぁ、万が一はあるかもしれないわね。でも本当に万が一よ」
「しかし、本来ならあの芸人コンビの四戦目にあの夫婦を当てる予定だったんですよね? なぜ今回の試合であの二組をぶつけたのですか?」
「あら、あなたまだ聞いてなかったの?」
マニラは驚いたように言った。
「この前ムイーサの闘技場から連絡が来たのよ。ウチの闘技場の代表と、向こうの闘技場の代表を出し合って試合をさせないかって」
「それじゃあ……」
「そう、この試合は実質、ウチの闘技場のタッグマッチ部門の代表を決める試合ってわけ」
「それなら、芸人コンビよりもっといいペアがいたんじゃ無いですかね?」
「いいのよ。別にそんなに大々的にやる代表戦じゃないんだし。それにね、あたし好きなのよ。ビッグドリームを追いかける若者って」
マニラはリングへと視線を移し、ウフッと笑った。
「とか言って、よりによってあの夫婦をぶつけるなんて、マニラさんあの二人に勝ち抜かせる気無いでしょ?」
それを聞いてマニラは呆れたように大きなため息をついた。
「あんた、わかってないわねぇ……」
「と言うと?」
マニラの目がより一層ギラリと輝く。
「ビッグドリームを掴むにはね、奇跡を起こさなきゃいけないのよ」
「はぁ、よくわかりません」
「あの子達が平凡な闘技者を四組倒してライブを開催しても、ボチボチの話題にしかならないわ。でも、もしあの最強の夫婦を倒してウチの代表になり、更にムイーサの代表を倒せば、この街であの子達を知らない人間は居なくなるわ。そこでライブを開催すれば満員御礼間違いなし。あの子達は闘技者としても芸人としてもビッグドリームを掴めるのよ」
「そこまで考えているとは。さすがアレル闘技場をここまで盛り上げたプロデューサーですね」
マニラはニコリと微笑む。
「あなた。おとぎ話は好き?」
「好きかと言われれば……嫌いではありません。幼い頃に母に良く聞かされましたから」
「私はね。おとぎ話に出てくる良い魔法使いになりたいのよ。純粋に夢を見る子達に、夢を掴むチャンスを与えたいの」
マニラの話を聞く男は「見た目は魔女っぽいですよね」とは言わなかった。
「さぁて、あの子達は魔法使いの与えた試練を超えられるかしらね」
膠着していた二組が、今、動き出そうとしている。
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