ナップの回想21
その日の闘技場の雰囲気はいつもと少し違っていた。
いつもであれば仮面を着けた二人がリングに上がれば歓声と罵声が闘技場を飛び交うのだが、今日はなぜかシーンと静まり返っている。
そしてリングへと出た二人は気付いた。リングの上には三人いる。そのうち二人は、血を流しながら地に伏して呻き声を上げている。倒れている二人は、ケルナ闘技場でかなりの実力を誇っている獣人の二人組で、ナップ達も以前試合を見た事があるが、あまりの荒々しい戦いぶりに身ぶるいする程であった。
その獣人達を見下ろすように、長い抜き身の野太刀を手にした異様な雰囲気の男が立っている。男はナップ達を見ると、口を歪めて笑った。
「ここに来れば強い奴とやれると聞いたのだが、チャンピオンクラスっていうのも大した事は無いな」
男の目は爛々と輝いているが、その顔からは生気が感じられず、まるで幽鬼のようである。ナップ達がその男から目が離せずにいると、司会の声が聞こえてきた。
「……あー、仮面騎士ペア、気を付けろ。そいつは乱入者だ。うちの専属闘技者が取り押さえるからそいつに背を向けずに控え室まで下がれ」
ふとリングの周りを見ると、リングを囲むように屈強な男達が集まってきている。ナップ達はその状況に動揺しながらも、男から目を離さずにジリジリと後退し始める。
「何だよ、あんたらはやらねぇのか?」
男がナップ達へ野太刀を向けた時、司会者席から野太い声が闘技場全体に響いた。
「お前らぁ!! そいつを倒せ!!」
リング上に釘付けになっていた視線が一斉に司会者席へと向けられる。そこにはいつも通り上半身裸のゴディバドフが仁王立ちしていた。
「そいつは俺からすれば鼻くそだが、中々強い。その乱入者を倒せばお前らがウチの代表だ!!」
その言葉に、静まり返っていた観客席が湧き上がる。
そうだー! やっちまえー!
俺は獣人コンビに賭けてたんだ! ブッ殺せ!
お前らが代表なんて認めねぇぞ!
倒せー!!
歓声を受け、ナップとフロナディアはスラリと剣を抜く。そして構えた。
「何者かは知らぬが、二対一で構わぬか?」
「あぁ、そういうの好きだぜ」
男は舌舐めずりをして、野太刀を構えた。
今、戦いの幕が上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます