両親の死

「殺されるって誰に?」


 ニコルはムチャの問いには答えずに二人の顔をじっと見つめた。

「……まぁ、お前らになら話しても大丈夫そうだな」

 そしてベッドから立ち上がりドアの外を確認すると、ニコルはコソコソと話し出した。

「僕の両親が事故で死んだ事は知ってるよな?」

「あぁ」

「どんな事故で死んだかは聞いた?」

「いや、それは聞いてないよな」

「うん」

「僕の父さんと母さんは、用事で離れた街に行った帰りに、馬車が崖下に転落して死んだんだ」

「それで?」

「父さんと母さんの死体が崖下から見つかった時、不思議な事に御者の死体が見つからなかったんだよ」

「それでなんでニコルが殺されるんだ?」

「御者の死体は動物かゴブリンが持ち去ったんだろうって衛兵が言ってたんだけど、僕は違うと思う。あいつが御者と組んで、父さんと母さんを崖から落とすように仕組んだんだよ」

 気がつくと、窓の外は薄暗くなっており、ポツポツと雨が降ってきていた。

「あいつって……誰だよ?」


「リベラさ」


 窓の外でゴロゴロと雷が鳴った。

「リベラさんが何でそんな事するんだ?」

「リベラはうちの財産を狙っているんだ。だから御者と組んで父さんと母さんを殺したんだよ」

 ムチャとトロンは先ほどニーナから聞いた話を思い出した。

「でもリベラさんはニコルの親父を……」

「ムチャ」

 トロンがムチャの口を押さえた。

「いいよ。その話は知ってる。きっとそれも父さんの財産を狙っての事だったのさ。だけど父さんは母さんと別れなかった。だから父さんと母さんを殺して財産を手に入れようとしたんだ」

「そう簡単にはいかないだろ。だって両親が死んだら財産を受け継ぐのはニコルだろ?」

 そこで二人ははっとした。

「だからリベラは僕を外に連れ出して殺すつもりなんだ。父さんと母さんのように事故に見せかけて」

 ムチャとトロンは再び顔を見合わせた。

「うーん……ちょっと考えすぎじゃないか?」

「でもお前らだって見ただろ?今日リベラが僕を無理矢理外に連れ出そうとするのを。きっと屋敷で殺したら疑われるから、どうしても屋敷から僕を連れ出したいんだよ。きっとニーナがいなければ僕はとっくに殺されてる」

 ムチャは腕を組んで考え込んだ。

「うーん……でもなぁ……」

「僕はリベラが両親を殺した証拠を見つけ出して、衛兵に突き出してやりたいんだ。お前ら協力してくれないか?」

 ニコルは二人に手を合わせた。

 その姿からは、先程まで高慢な姿は消え、両親の無念を晴らしたいニコルの思いが伝わってきた。

「よしわかった! ニコルの言ってる事が正しいかどうかはわからないけど、納得するまで付き合ってやるよ!」

「本当!?」

 ニコルの顔が少しだけ明るくなった。

「でもニコルはどうしてニーナさんに協力を頼まなかったの?」

 すると、急にニコルはもじもじし始めた。

「えっ……それは……ニーナには危ない目に遭って欲しくないし……」

 ニコルの顔がみるみるうちに赤くなる。


「うん、それ以上はいい、よくわかった」


 二人は純朴な少年ハートにズカズカ踏み込むほど無粋ではなかった。


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