友達作戦

「友達作戦だ」

 あの一件の後、突然ムチャが思いついたように言いだした。

「友達作戦?」

 トロンの頭にポワンとハテナマークが浮かぶ。

「そうだ! ニコルは両親の死を引きずって悲しみのどん底にいる。そんな時にお笑いを見ても楽しくないだろ?」

「たぶん」

「だから、まずは俺達がニコルの友達になる事でニコルの心に余裕を作ってやるんだよ」

「なるほど」

「それに友達がやるネタなら多少滑っていてもつい笑っちまうだろ?」

「……それ、芸人として考え方どうなのかな」

 ムチャの目がスイっと泳ぐ。

「い、今はニコルを笑わせる事が重要だろ! ニーナさんとも約束したしな!」

「そっちがメインなんじゃないの?」

 ムチャを見るトロンの目はじとーっとしていた。

 ムチャの目はスイスイ泳いでいた。

「とにかく! 友達作戦決行だ!」


 ムチャとトロンはニコルの部屋の前にやってきた。

(よし、いくぞ……)

(うん……)

 そして部屋の扉をノックする。

「誰?」

 部屋の中からニコルの返事が返ってきた。

「に、ニコル! 俺だよムチャと」

「トロン」

「あぁ、三流芸人か」

「さんりゅ……」

 ムチャの額に青筋が浮かんだ。

「ムチャ…」

 それをトロンがどうどうと抑える。

 少し間があり扉が開き、ニコルが顔を覗かせる。

「入っていいよ」

 ニコルは二人を部屋に招き入れた。

「邪魔するぞ」

 二人が部屋に入ると、ニコルはベッドに腰掛けた。

「で? 何の用?」

「いやー、俺達ニコルと友達になりたいと思って」

「そうそう」

「ふーん……」

 ニコルは下手な作り笑いを浮かべているムチャと、無表情のトロンを冷めた目で見比べる。

「友達に?」

「そうそう」

「じゃあ、お前脱いで」

「「は?」」

 二人はニコルが言った事が一瞬理解できなかった。

「友達になりたいなら脱げよ、そっちの方」

 ニコルは足でトロンを指した。

「え? ちょっと、ニコル坊ちゃん?」

「どうせウケないんだから、もったいぶってないで脱げよ、貧乳芸人」


 プツン


 ムチャの隣から何かが切れる音が聞こえた。

「我が身に宿る怒りの感情よ、沸々と沸々と沸々と湧き上がり巨大なハエ叩きへと具現せよ……」

 トロンは据わった目でブツブツと呪文の詠唱を始める。

「ストーップ!! トロンストーップ!!」

 今度はムチャがトロンをどうどうと抑える番であった。

「おい! ニコル! いきなり何言い出すんだよ!」

「冗談だよ、冗談」

 ニコルはやれやれと首を振る。

「どうせリベラの差し金なんだろ? 友達ごっこをしながら僕を外に連れ出すように頼まれたの?」

「いや……リベラじゃなくてニーナにだけど……」

「ニーナに? ふーん……ならいいや」

(こいつニパと同じくらいの歳のくせしてえらい違うな)

(うん)

「とにかく、僕は絶対に外に出ないからね」

 ニコルはムチャとトロンを睨みつけた。

「何でそんなに外に出たがらないんだよ?」


「外に出たら殺されるからさ」


 ムチャとトロンは顔を見合わせた。

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