プレグの学園生活
ニパがマリーナと友達になった頃、プレグは沢山の男子生徒達に囲まれてうんざりしていた。
プレグ先生! 火炎魔法の発動が安定しないのですが!
プレグ先生! 恋人はいるんですか!?
プレグ先生! スリーサイズは!?
「これだから思春期の男って嫌なのよ……」
プレグは自分がクリバー学園に通っていた頃を思い出す。
「おーっほっほっほ! 私と付き合いたければ、魔闘で私に勝つことが条件よ!」
思い出の中のプレグは男子を足蹴にして高笑いをしていた。
「男も女も思春期って嫌なもんね……」
プレグは目にハートを宿した童貞臭漂う男子生徒達を華麗にスルーして、魔法学科の教室から職員室へと戻る。プレグが職員室に用意された自分の席に着くと、中年の男性教師がプレグに声をかける。
「プレグ君、初日の授業はどうだったかね?」
男性教師はそう言うと、プレグのデスクに淹れたてのコーヒーを置いた。
「あ……ナイル先生。ありがとうございます」
彼の名はナイル。このクリバー学園にもう十年以上勤めている魔法学科の男性教師だ。ナイルはイケメンとは少し違うが、細身で背が高く、黒縁の眼鏡がよく似合うナイスミドルであった。
「今日は特に問題はありませんでした。戸惑う事は色々ありますが……」
ナイルの淹れたコーヒーを飲むプレグの頬は僅かに赤らんでいる。
「君は学生時代から優秀だったからね。しかし驚いたよ。あのおてんばだったプレグ嬢がこんなに立派になっているなんて」
「先生! む、昔の事は言わないでください……」
プレグは再び学生時代を思い出す。
プレグは魔法の成績は優秀であったが、事あるごとに問題を起こす、優等生とは程遠い生徒であった。
プレグの担任であるベローバは当時から学年主任として忙しく、多雑なベローバの代わりに、まだ若かったナイルがプレグを指導する事が多かった。
「プレグ君、また上級生の男子を魔闘で破ったそうだね」
放課後の職員室で、プレグにコーヒーを差し出しながらナイルは言った。
「先生、別に私は悪い事はしていませんよ。私はただ、私より弱い男につきまとわれたく無いだけです……」
ナイルの淹れたコーヒーを一口啜り、まだ幼さの残るヤングプレグはそっぽを向く。
そんなプレグを見て、ナイルは困ったように苦笑いを浮かべた。
「プレグ君、僕は別に君がした事が悪い事だとは思ってはいないよ。若い頃は喧嘩だってするし、恋愛への向き合い方がわからなくて攻撃衝動に襲われる事だってあるだろう」
「じゃあ……罰則のトイレ掃除は無しにしてください」
「それはダメだ、規則は規則だからね」
「ナイル先生のケチ」
プレグは更にむくれてみせる。
「まぁ、そうむくれないで聞いてくれ。私が心配なのはね、君がその強さにかまけて、自らの心と向き合う事を避けている事さ」
「私が避けている?」
「そう。君が恋人になる権利を条件に魔闘を受けているのは、本当は恋人探しなんかじゃ無い。ご実家との不仲で溜まったモヤモヤを魔闘にぶつけているんだろう?」
それを聞いてプレグはハッとする。
「せ、先生には関係ありません!」
急に強くなった語調は、ナイルの言葉が的を射ている事を示していた。
「いくら魔闘でストレスを発散しても、今君が直面している問題とちゃんと向き合わない限り、そのモヤモヤは君に一生ついて回る」
「余計なお世話です! 失礼します!」
プレグは立ち上がり、職員室を去ろうと扉へと歩き出す。その手をナイルの手が掴んだ。
「放してください」
プレグは振り返り、ナイルを睨みつける。
そんなプレグに、ナイルは言った。
「君に魔闘を申し込む」
「え?」
「ただし、条件は恋人になる事じゃない。私が勝てば、もう自らが恋人になる事を条件に魔闘を受けないで欲しいんだ」
「じゃあ、私が勝ったら?」
「君の好きにするがいいよ。私は二度と君のやる事に口を挟まない。ついでに魔法薬の授業の評価を卒業までAにしよう」
「……受けて立ちます」
こうして、ナイルとプレグは放課後の魔法演習場で魔闘を行う事になった。
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