プレグの学園生活2
プレグはナイルとの魔闘に勝つ自信があった。プレグは当時、攻撃魔法を専攻しており、その中でも他の生徒達の追従を許さぬ程に飛び抜けて優秀な成績を修めていた。更にナイルは、教師とはいえ魔法薬学の担当で、攻撃魔法や障壁を張るのは苦手だと自ら言っていた事をプレグは知っていた。
しかし、魔闘の結果はナイルの勝利に終わった。
ナイルはなんと一発の攻撃魔法も放たずに、障壁だけでプレグのあらゆる攻撃魔法を防ぎきったのだ。
「な、なぜ……」
攻撃魔法を撃ち尽くし、魔力を使い果たしたプレグは疲労でガクリと膝をつく。そんなプレグにナイルは手を差し伸べた。
「私の勝ちでいいかな? さぁ、約束だ」
ナイルの差し伸べた手をプレグは払い除ける。
「嘘! ナイル先生があんなに強力な障壁を貼り続ける事ができるはずない!」
ナイルは魔闘中、プレグの障壁解除の魔法さえ弾く強力な障壁を張り続けていたのだ。プレグの情報ではナイルがそんなに強力な障壁を張り続ける事ができるはずはなかった。
「先生、何かズルをしましたね!」
プレグが指摘すると、ナイルははにかむように微笑む。そして「そうだよ」と言うと、ドサリと演習場の床に倒れ込んだ。
「先生!?」
プレグは突然倒れたナイルに駆け寄る。
ナイルの手には、小さな丸薬の瓶が握られていた。
プレグは瓶のラベルを見て顔を青くする。
「これは……魔狂丸!」
魔狂丸、それは、飲んだ者の魔力を絞り出し、限界まで酷使させる危険な丸薬であった。
「ははは、流石はプレグ君だな……三錠も使ってしまったよ」
ナイルは床に伏したまま弱々しく微笑む。
「先生、なぜこんな無茶を……」
プレグが問うと、ナイルは答える。
「君が、とても苦しそうだったからね。それに生徒のためなら、これくらい無茶のうちに入らないさ」
「先生……」
「約束、守ってくれるね?」
その日から、プレグはピタリと魔闘を受けるのを止め、品方向性な優等生となった。その後プレグは家庭の事情で実家に戻り、とある魔法大道芸人に出会い、その芸人に弟子入りし、自らも芸人を目指す事になる。
「いやー、あの時は死ぬかと思ったよ」
時は現代に戻り、当時より幾分か老けたナイルは、当時と変わらぬ笑顔を浮かべて、はははと笑った。
「……あの時はありがとうございます。先生のおかげで今の私があるようなものです」
プレグはナイルの淹れたコーヒーを啜る。
ナイルの淹れてくれたコーヒーは、当時と同じ味で、大人になったプレグにはひどく甘く、しかし優しい味がした。
「いい話だなぁ」
その声にプレグはギョッとして背後を振り返る。
そこにはムチャとトロンが立っていた。
「あんた達、何でここにいるのよ!?」
「いやね、学園祭のステージについてベローバ教頭に話を聞きに来たら、プレグがほっぺを赤くしながら何やら思い出話をしてるからね、何かなぁって思って」
「プレグも若かったんだねぇ」
感心する素振りをしながらも二人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
特にムチャの笑顔は憎たらしかった。
「キェーッ!! 物理的記憶消去!!」
プレグはムチャに掴み掛かり、押し倒して平手打ちを繰り返す。
それを見てナイルはやれやれと首を横に振った。
「三つ子の魂百までと言うしね……」
大人でも子供でも、プレグはやっぱりプレグであった。
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