ニパとマリーナのお泊まり会

 クリバー学園の学園祭を間近に控えたある日の夜の事である。

 その日ニパはマリーナの提案により、中等部第二女子寮にあるマリーナの部屋に泊まりにきていた。いわゆるお泊まり会というやつである。

 因みに、中等部第二女子寮は、トロンやエスペリアの部屋がある第一女子寮のように豪華絢爛ではなく、至って普通の、むしろ質素なくらいの寮である。第一女子寮が豪華絢爛なのは、あくまでエスペリアの実家のサポートがあってこそなのだ。


 ニパはマリーナの部屋に入るなり、犬のように部屋の匂いをクンクンと嗅ぎ周り、「ちょっといその匂いがする」と言って、地味にマリーナを凹ませた。因みに部屋が磯臭いのは、マリーナの体臭のせいではない。マリーナが一人暮らしでホームシックにならないように実家から持ってきた、海の匂いがする海匂石かいこうせきという石のせいである。


 二人はマリーナの淹れた「海茶」という、仄かに海藻の味と香りのするお茶と、マリーナの実家から送られてきたという、様々な海産物をすり潰して乾燥させて焼いた非常食のような焼き菓子を食べながら、和気藹々と、学校の事や、お互いの地元の話、ニパとプレグの旅の話をして過ごした。


 夜が更けてくると、ニパはふと思い出したように自分のカバンをガサゴソと漁りだした。そして「じゃーん!」と効果音を口にしながら、赤紫色の液体で満たされた一本の瓶を取り出す。


「ニパちゃん、それ何?」


 マリーナが問うと、ニパはニヒヒと笑って答えた。


「お酒だよ!」


 そう、ニパが取り出した瓶は、プレグが常備していたワインだったのだ。


「お酒!? それ、どうしたの!?」

「今日ね、マリーナの部屋に泊まりに行くって言ったら、プレグが何か持って行きなさいって言うからこれ持ってきたんだよ!」


 もちろん、プレグの「何か持って行きなさい」は、相手にご迷惑をお掛けするのだから、礼儀としてお菓子か何かを持って行きなさい。もしくは着替えやタオルをちゃんと持って行きなさいという意味の言葉であったのだが、このやんちゃなワンコガールは何を履き違えたのか、プレグの部屋にあったワインを一本持ち出したのである。


「わぁ……それ、飲むの?」

「もちろんだよ! せっかくのお泊まり会なんだから、マリーナも飲もう」


 マリーナはそれまでお酒を飲んだ事が無く、少しだけ気が引けたが、ニパがせっかく持ってきたものを断るのはもっと気が引けて、少しだけ飲んでみる事にした。因みにマリーナと違い、ニパは過去に二度ほど飲酒を経験している。


 食堂にグラスを取りに行こうとするマリーナをニパは制する。そして瓶を開けて、そのまま口をつけてグイッと飲んだ。


「ぷはぁ! うー、酸っぱい……大人はこうやって飲むんだよ!」

「へぇ〜、ニパちゃん大人だねぇ!」


 プレグは人前で無ければ、今のニパのようにワインや葡萄酒をラッパ飲みする事がある。子は親の背中を見て育つと言うが、子はあまり良くない事に限ってよく見ているものだ。


 マリーナもニパから瓶を受け取り、ちょびっとだけ口に含み、飲み込む。


「うぅ……なんか酸っぱいね」

「だよねー、なんで大人はこんなの飲むんだろ。ブドウならお酒にしないでジュースにした方が甘くて美味しいのにね」


 二人がお酒の味を理解するようになるのはまだまだずっと先のはなしである。幸い二人はアルコールに極端に弱い体質ではなく、頬を仄かに赤く染めながら、先程より少しテンション高めにガールズトークに花を咲かせた。


 そして、夜がすっかり更けた頃、瓶を空にした二人はランプの灯りを消して、ベッドに入る事にする。

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