ニパとマリーナのお泊まり会2

「じゃあ、おやすみ!」

「おやすみなさぁい」


 二人はそう言って一つのベッドに入ったはいいが、アルコールのせいなのか、それとも友達と一緒にいるワクワクのせいなのか中々寝付けなかった。

 マリーナは天井を見上げながら、隣に横たわるニパに声をかける。


「ねぇ、ニパちゃんまだ起きてる?」

「うん、なんか眠れないね」

「うん……」


 ニパがマリーナの方を見ると、マリーナはほんのりと頬を赤く染めて、何やらもじもじとしながら天井を見つめていた。


「どうしたの?」

「あのね、ニパちゃんは好きな人とか……いる?」


 ニパが問うと、マリーナは唐突にそんな事を口にした。それを聞いてニパの目がキラリと輝く。


「何々? もしかして、恋の相談!?」


 急にテンションの上がったニパに少し驚きつつも、マリーナはもじもじを加速させ、コクリと頷く。


「そうかそうかぁ、マリーナもお年頃だもんねぇ。お姉さんに相談してご覧なさい」


 お姉さんと言ったが、無論マリーナとニパは同い年である。ニパは普段は天真爛漫で、時折獣っぽい素振りを見せる半獣少女であるが、一皮剥けば中身は年相応の少女であり、この手の話題が好きなのだ。


「相談って程じゃないけど……ニパちゃんは恋した事ある?」

「あるよー、私こう見えても恋の酸いも甘いも知ってるんだから!」


 とは言いつつ、ニパの恋愛経験は以前滞在していたアレルの街での一投一失点のみである。しかし、恋愛経験豊富なプレグとよく話をしているので、自分も恋愛経験豊富になった気分でいるだけなのだ。


「本当? ニパちゃん凄いなぁ」

「うんうん、胸を借りるつもりでなーんでも私に聞いてよ」


 ちなみに、ニパの胸はマリーナよりはあるが、そんなに大差はない。


「あのね、まだ本当に好きかどうか自分でもよくわからないんだけど、気になる人がいるんだ」

「うんうん、あるね、ありがちだね」

「でね、どうしたらいいかなぁって思ってて……」


 そこまで言ってマリーナはニパの方を見る。


「ひあっ!?」


 ニパは爛々と光る獣のような目でマリーナを見つめており、マリーナは思わず小さく悲鳴をあげた。


「告ろう」

「え?」

「まず告ろう」

「えー!?」

「告って、振られたら仕方ない。付き合って、本当はそんな好きじゃなかったって思ったら別れれば良いよ!」

「えー……」


 これはニパがプレグから聞いたプレグ恋愛論である。ニパ自身は面と向かって男の子に告白した事も、付き合った事も無い。


「で、でも、振られるの怖いなぁ……」

「マリーナならかわいいから、きっと大丈夫だよ!」

「そんな事ないよぉ……私、いつももじもじしてるからクラスの男子にからかわれたりするし」

「それはその子達がマリーナの気を引きたいだけだよ! 男の子ってそういうものだよ!」


 確かにそういうものではあるが、ニパの知識は基本的にプレグと小説頼りである。


「そもそもどうやって告白したらいいのか……ニパちゃんだったら、どうやって告白する?」

「え?」


 マリーナに問われて、ニパの思考は一瞬フリーズした。そう、なんだかんだ言っても、ニパは誰かに告白した事など無いのだ。

 ニパは動揺を隠しながらゆっくりとマリーナから目をそらし、天井を見上げる。


「て、がみ、とか?」

「手紙? ラブレターかぁ。何て書くの?」

「あ、なたが、好き、とか?」

「どうやって渡す?」

「や、ぶみ、とか?」

「矢文ぃ!?」


 どうやらこの恋愛先生は中々のポンコツのようだ。


「矢文は無理だよぉ。私魔法学科だし、危ないし」

「じゃあ、やっぱり本人に直接告白するのがいいかもね」

「それこそ無理だよぉ! 恥ずかしいし……」

「それを乗り越えてこそ、恋ってのは実るんだよ!」

「でもぉ……」


 ただでさえ異常な恥ずかしがり屋のマリーナが、面と向かって好きな人に告白するのは難しい。なにぶん彼女は男子と目を合わせる事さえできないのだ。それはニパも重々承知していた。そこでニパはこんな提案をする。


「じゃあ、私が練習台になるから、私を好きな人だと思って告白してみなよ」

「え?」


 それは、まるでコントの前振りのような提案であった。

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