対決、ブレイクシア城4

「ふはは! どうした、手も足も出ないか?」

 ブレイクシアが次々と放つ魔力の槍を、トロンが円錐型の魔力障壁でなんとか防いでいる。

「あいつテンション高すぎだろ」

「凄い威力……長くはもたない」

 トロンが張る障壁には、早くもピシピシとヒビが入り始めていた。

「トロン、俺が飛び出すから援護頼む」

「うん」

 ムチャはブレイクシアが魔力を込める隙を突いて駆け出した。

「ネズミが飛び出してきたな」

 ブレイクシアはムチャに照準を合わせ、両の手から魔力の槍を放った。それを読んでいたムチャは上空へ跳躍し槍を躱すと、剣を抜いて鞘をブレイクシアに投げつける。

「むっ」

 鞘を防いだブレイクシアに、一瞬の隙ができた。ムチャは上段からブレイクシアに剣を振り下ろし、それと同時にトロンは火球を放った。剣を防げば火球が当たり、火球を防げばムチャに斬られる。二人の絶妙なコンビネーションは決まるかに思えた。

「小賢しい」

 しかし攻撃はブレイクシアに届かなかった。ブレイクシアはムチャの剣より僅かに早く飛んできた火球を、マントをバサリと翻し、上空のムチャに向けて打ち返したのだ。

「あちぃ!!」

 ムチャは火球の直撃を受けて床に落下した。そこをブレイクシアの手から放たれる魔力の槍が襲う。

「!!」

 ムチャはゴロゴロと床を転がり、なんとかそれを躱した。

 ブレイクシアが更に槍を放とうとすると、魔法で身体強化を施したトロンが、距離を詰めて杖で殴りかかる。ブレイクシアはそれを片腕で防いだ。しかし、杖は魔法により雷を帯びており、腕で防いだブレイクシアの全身に電撃が走った。その隙にムチャは深く息を吸い込み気を貯める。

「喜剣……狂喜乱舞!!」

 全身に黄色いオーラを纏ったムチャが、凄まじい速さの連撃をブレイクシアに打ち込んだ。しかしどれだけ打ち込んでも、ブレイクシアの手刀によって防がれてしまう。

「ほれ、どうした。それだけ……かぁーーーっ!!!!」

 ブレイクシアが気合いを放つと、それだけで側にいた二人は数メートル後ろに吹っ飛ばされた。それと同時にトロンの肉体強化とムチャの感情術まで解除される。

「いててて……やっぱあいつ強いぞ」

「どうする?」

 二人は素早く合流し、トロンは再び障壁を張った。

「強制爆笑陣は?」

「魔法陣描く暇が無い」

「感情魔法は?」

「唱える隙が無い」

「それなら……」

 二人が作戦を立てていると、ブレイクシアは両手を胸の前で合わせて魔力を込めた。そしてその手をゆっくりと広げると、そこには漆黒のオーラを纏う禍々しい斧槍が握られていた。

「まだまだ俺を楽しませろ!」

 ブレイクシアは斧槍を手に、ムチャとトロンに襲いかかる。障壁ではその斧槍を防げないと一瞬で察したトロンは、障壁を解除すると同時に閃光魔法を放ち、後ろに下がった。杖の先からブレイクシアに向けて強烈な光が放たれる。

「ちいっ」

 閃光に視界を奪われたブレイクシアの斧槍は空を切った。しかし、斧槍から出た衝撃波が謁見の間の壁に巨大な傷を付ける。

「なんじゃありゃ!? トロン、替え玉用意!!」

「わかった……幻よ」

 トロンの杖からゆらりと陽炎が立ち上った。


 ブレイクシアが閃光で眩んだ目をこすり、開くと、そこには異様な光景が広がっていた。

「オラオラ!」

「鬼さんこちら」

「かかってこいよ!」

「お腹すいた」

「ハゲ!」

「鬼とオニオン」

「頭からタケノコ生えてるぞ!」

 謁見の間全体に、大量のムチャとトロンが溢れていたのだ。大量のムチャとトロンは皆ランダムに動き、どれが本物かさっぱりわからない。

「何だこれは……」

 一瞬動揺したブレイクシアであったが、すぐに気を取り直した。ブレイクシアは、ワラワラと徘徊しているムチャの一体に斧槍を振るう。すると、そのムチャは「ぎゃー」とわざとらしい悲鳴を上げ、煙になって消えた。

「やはり幻覚か。小細工をしおって」

 ブレイクシアは斧槍をブンブンと振り回し、次々とムチャとトロンの幻を消してゆく。何体目かの幻を消した時、一体のムチャが今までの幻と違う「グガァ!」という鈍い悲鳴を上げた。ブレイクシアがそちらを見ると、そこには傷を負った一体のガーゴイルがいた。

「グ……グゲギグギガガガ……」

 ガーゴイルはのたうち回りながら恨めしげにブレイクシアを見上げた。

「あいつら……なんという事を!」

 ブレイクシアがガーゴイルに駆け寄り、ガーゴイルに触れる。すると、ガーゴイルはボワンと煙になって消えた。

「なっ!?」

 その時である、


 バチコーン!!


 幻に紛れて近づいたムチャが、ブレイクシアの後頭部を剣で打った。

「ぐぁっ!!」

 完全に隙を突かれたブレイクシアは、頭を押さえ、もんどりうって転んだ。その隙にムチャは再び幻に紛れる。

「おのれ!!!!」

 怒ったブレイクシアが、先程より激しく斧槍を振り回す。斧槍から放たれた衝撃波が、幻のムチャとトロンを消しながら、謁見の間の壁に次々と大きな傷をつける。すると、今度は「きゃあ!」というキーラの悲鳴が聞こえた。ブレイクシアがそちらを向くと、背中を斬られたキーラが床に倒れている。

「馬鹿め、二度も騙されるか!」

 ブレイクシアがそう言うと、倒れているキーラが口を開いた。

「ブレイクシア様……ずっと前から大好きでした」

「なっ!?」

 それを聞いたブレイクシアは思わず硬直する。


 バチコーン!!!!


 硬直したブレイクシアの後頭部を、ムチャの剣が再び打った。またしても隙を突かれたブレイクシアは、またしてももんどりうって倒れた。そしてムチャはまたしてもそそくさと幻に紛れる。

「ふざけるなー!!!!」

 ブレイクシアの咆哮で、周囲の幻が数体消し飛んだ。しかし、幻はすぐにワラワラと増殖する。

「ぐおぉぉぉお!」

 ブレイクシアは先程よりも更に激しく斧槍を振った。その荒れようはまるで嵐の如くである。ムチャとトロンの幻が、増殖する以上の速さで消滅してゆく。

「ぐっ!」その時、衝撃波が脚にかすった一体のムチャが小さく呻いた。荒れ狂いながらも、ブレイクシアはそれを聞き逃しはしなかった。

「くくく、これだけ幻がいようとも、運悪く当たる事はあるだろうな」

 ブレイクシアは足を引きずりながら幻に紛れようとするムチャに狙いを定める。そしてその背に向けて斧槍を……振るいはしなかった。

「こっちであろう?」

 ブレイクシアはおもむろに振り向く。

「なっ!?」

 そこにはブレイクシアの背後で剣を振り上げたムチャがいた。

「はぁっ!」

 ブレイクシアは驚くムチャに向けて突きを放つ。鋭い突きはムチャに防御させる暇もなく胸を貫いた。


 ボワン


 なんと、そのムチャも幻であった。

「な……」


 バチコーン!!!!!!


 動揺の隠せぬブレイクシアの後頭部を、三度ムチャの剣が打った。

「ぐ………ぐぐぐぐぐ」

 怒り心頭のブレイクシアは角まで顔を真っ赤にして震えた。

「絶対に殺す!!」

 すると、幻のムチャ達が一斉に黄色いオーラを放ち始めた。

「次は何だ!?」

 ブレイクシアが叫ぶと、ムチャ達は剣を地面に突き立てて言った。

「喜流し!」

 ボワワワワワワン

 幻のムチャとトロンが一斉に消え、代わりにブレイクシアを囲む大きな魔法陣が姿を現わす。その魔法陣は、黄色い光を放ち、輝いていた。

 そう、ブレイクシアが警戒すべきは、後頭部を狙うムチャでは無く、幻に紛れて魔法陣を描くトロンの方であったのだ。

「いやぁ、トロンが斬られないかヒヤヒヤしたよ」

「私も。一応障壁張ってたけど」

「とりあえずやりますか」

「うん……喜と喜の力を掛け合わせ、増幅せよ」

 そして、二人は声を揃えた。


「「強制爆笑陣!!」」


 魔法陣が一際大きく輝いた。

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