対決、ブレイクシア城3
ムチャとトロンが城内を駆け回っている間、城門前ではニパ対ゴブリン軍団、プレグ対キーラの戦いが繰り広げられていた。
「来ないでーーー!」
ニパはゴブリン達を足蹴にしながらぴょんぴょんと荒れた大地を跳ね回る。ゴブリン達はネズミを追う猫のようにニパを追いかけるが、アクロバティックな動きで跳ね回るニパにすっかり翻弄されていた。
「なんか、ヌイルの町で追いかけ回されていた頃を思い出すなぁ」
その時、ニパはふと気付いた。
(血が騒がない……)
ヌイルの町でゴロツキ共に追われていた時は、恐怖のあまり、その身に流れるウルフマンの血に任せて無我夢中に相手を撃退していたが、今はちゃんと戦う理由がある。それは恩人であるムチャとトロンのためだ。縁もゆかりもないニパの為に、ムチャとトロンは危険を犯して戦ってくれた。自分と孤児達に未来と笑いを与えてくれた。二人の事を考えるとニパの胸には湧き水のように勇気が溢れてきた。
「せやぁ!」
ニパは跳躍すると、大きな岩を足場に三角飛びをし、追ってくる先頭のゴブリンにドロップキックを見舞った。ゴブリンは後続を巻き込みゴロゴロと転がる。しかし、巻き込まれなかった一匹のゴブリンが、素早い動きでニパの腕を掴んだ。そして、鋭い爪でニパを引き裂こうと、空いた腕を振り上げる。ピンチに陥りながらニパはプレグの言葉を思い出していた。
「色気もお客を惹きつける大事な要素なのよ」
(そうだ、あの二人も相手をお客に見立てていた。恥ずかしいけどやるしかない!)
ニパは服の胸元を引っ張ると、ゴブリンにチラリと鎖骨を見せつけてウインクをした。
「うふーん」
すると、ニパの唐突過ぎる行動にゴブリンは一瞬動きを止めた。
「ウゴ……?」
(今だ!)
その隙をついてニパはゴブリンの顔面に鉄拳を見舞った。変身せずともしっぺで相手を悶絶させるニパの全力の鉄拳を受けたゴブリンは、鼻血を撒き散らし大地に叩き付けられる。その威力に他のゴブリン達もたじろいだ。
「プレグ! やったよ、私は色気を身に付けたよ!」
たじろぐゴブリン達を前に、ニパはバシッとガッツポーズを決めた。ニパが色気を身に付けるには後数年はかかりそうである。
一方、プレグの方では激しい魔法戦が行われていた。キーラが雷を放ち、プレグがそれを躱す。そしてプレグがお返しにと火球の連打を見舞うと、キーラは地面を隆起させて壁を作り、飛んでくる火球を防いだ。プレグは追い打ちに氷の槍を放ち、壁を打ち砕く。しかし、キーラは既に上空へと跳んでいた。
「旋風よ、無数の刃となりて我が眼前の敵を斬り裂け!」
キーラが杖を振ると、真空の刃がプレグへと降り注ぐ。
「豪雷よ、集いて槍となり我が眼前の敵を貫け!」
プレグは僅かに肌を裂かれながら、すれすれで真空の刃を躱し、雷の槍を生み出す。そして槍を上空のキーラへと投げつけた。キーラは咄嗟に障壁を張るが、完璧には打ち消せずに雷をその身に受ける。
ダメージを受けながらも、キーラは何とか地面に着地する。
「人間の割にはやるな」
「あんたもね」
二人の実力は拮抗しているように見えた。
「だが私の本来の戦い方は、このような魔法の撃ち合いではない。お前なら……そうだな。こいつがいいだろう」
そう言うと、キーラは懐から黒い塊を取り出す。よく見るとそれはドクドクと僅かに脈打っている。
「魔導喰いという魔物を知っているか? これはその心臓だ」
「そりゃあ知ってるわよ、魔法使いの天敵だもの。心臓だけじゃなければね」
「そうだな、心臓だけで無ければ魔法使いにとってこれ程恐ろしい魔物はいない」
キーラはそれを地面に落とし、杖で触れた。
「汝、土の体に魔の命を宿し、我が命に従え」
すると、周囲の土がもぞもぞと動き魔導喰いの心臓を包み込む。プレグは危険を感じ、後ずさった。
「私には、ブレイクシア様の次に好きなものがある」
心臓を包み込んだ土はあっという間にボコボコと膨れ上がり、遂には五メートルを越える人型になった。
「ゴーレム生成!?」
「ふはははは、そう! 大きいものは良いものだ! 命令はただ一つ! 奴を八つ裂きにしろ!」
魔導喰いの心臓を核にしたゴーレムは、大地を踏みしめプレグへと襲いかかった。
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