ペチャとポロンの冒険6
せっかくなけなしの勇気を振り絞ったにも関わらず、ペチャはポロンを助けるどころか更に危機的な状況へと追い込んでしまった。
感電して動けぬポロンは微塵の抵抗もすることなく、あっさりと水竜の口に再び咥えられる。そして水竜はポロンを丸呑みにしようとアグアグと口を動かし始める。
「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん!」
ペチャの声は、完全に気絶しているポロンには届かない。このままではポロンが水竜のお昼ご飯になるのは時間の問題であった。
ペチャは杖を握りしめたまま今にも泣き出しそうであった。いつも喧嘩ばかりしているけど、大事な家族であるポロンが水竜に食べられてしまう。ペチャの体が震え、カチカチと奥歯が鳴る。そしてペチャの目から涙が溢れ出した。
「お……おね……おね……」
それと同時に、辺りに旋風が巻き起こる。そしてペチャ周囲にパチパチと火花が瞬き始めた。
「おね……おねぇちゃんを……」
火花はやがて雷となり、周囲の草花を焦げさせ、旋風は突風となり、木々の枝を激しく揺らす。
「お姉ちゃんを……食べるなぁ!!!!」
そしてペチャが叫んだ瞬間、ペチャを中心に凄まじい衝撃波が放たれる。その衝撃波は水竜にまで届き、そのあまりの衝撃に水竜はポロンを湖に取り落とした。
「……ぷはっ!」
衝撃波のショックで目を覚ましたポロンは、湖の畔へと目をやる。そこには魔力の暴走で力尽きたペチャが、ガックリと膝をついていた。背後を振り返ると、水竜が驚いた様子であんぐり口を開けて目を丸くしている。その隙にポロンは急いで陸地へと辿り着いた。
「ペチャ! ペチャ!」
陸に上がったポロンは、膝をつき肩で息をしているペチャへと駆け寄り背中を摩る。ペチャは顔を上げて、眠そうな半開きの目でポロンを見た。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
弱々しいペチャの言葉にポロンは小さく頷く。過程はどうであれ、ペチャは姉であるポロンの命を救ったのだ。
「大丈夫、大丈夫だよ」
ポロンがそう言うと、ペチャは安心したのかゆっくりと目を閉じて気を失う。魔力が暴走した後、ペチャはいつも疲れ果てて眠ってしまうのだ。目を閉じたペチャを地面に寝かせ、ポロンは脱いだ服の上に置いてあった剣を手に取る。水竜は衝撃波のショックから覚めたのか、こちらに向かってザブザブと泳いできていた。
「こうなったら、意地でも薬草を持ち帰ってやるんだから!!」
剣を腰だめに構えたポロンの全身から、大きな黄色いオーラが立ち上る。
「喜術! 乱走!」
ポロンが助走をつけて迫り来る水竜に飛びかかろうとしたその時だ。
バサッ
ポロンと水竜の間に上空から、杖に跨り長いローブを羽織った何者かが舞い降りてきた。それを見たポロンと水竜は互いに動きを止める。そして舞い降りてきた人物を見たポロンは、驚きの表情を浮かべて呟いた。
「お、お母さん……」
上空から現れたのは、険しい表情を浮かべながらもトロンとしたタレ目のせいでイマイチ迫力の無い、ポロンとペチャの母親であった。
ポロン達の母親は、水竜に向き直り語り掛ける。
「こらぁ。あんた、うちの子たちをイジメようだなんて許さないよー」
どこか間の抜けたその声を聞き、水竜は「きゅーん」と可愛らしい声を出して頭を垂れた。そしてその頭をポロン達の母親はヨシヨシと撫でる。その様子をポロンは唖然としてただ見ていた。
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