ペチャとポロンの冒険7

 水竜が湖へと帰った後、勝手に森に入ったポロンとペチャは母親にしこたま怒られた。


「ごめんなさい。まさか水竜が出るなんて思わなくて……」

「ごめんなさい……」

 頭を下げる二人に、母親は少しバツが悪そうにこう言った。


「あー……あのね、あれ、あんた達が産まれるずーっと前にお父さんが海で釣ってきて、しばらく水槽で飼ってたんだけど、大きくなってきてウチじゃ飼えなくなったから湖に放したの。まさかあんなに大きくなるなんてねぇ」

「「えーっ!?」」

 通りで母親に懐いているはずである。もしかしたら水竜は二人を襲うつもりはなく、ただじゃれていただけなのかもしれない。


「でも、薬草のためとはいえ子供だけで森に入ったらダメって言ってたのに。悪い子達だよ」

「だって、お父さんに早く良くなって欲しかったんだもん……」

「それに、お父さんとお母さんも子供の頃色々冒険したんでしょ!?」

 二人の反論に、母親は小さく溜息をつく。


「まぁ、あんた達よりは大きかったけどね。冒険好きというか、無鉄砲なのはお父さん譲りなのかなぁ」

 そう言って母親は二人の頭をポンポンと撫でた。


「でも、よく頑張ってここまで来たね。薬草取って帰ろうか」

「「うん!」」

 表情を崩した母親の言葉に、二人は元気よく頷いた。


 こうして、幼い二人の小さな冒険は終わった。

 二人が大きくなった時、二人の人生の前にはもっと大きな冒険が待っているかもしれない。かつて父親と母親が力を合わせて、そして多くの人々に支えられながら乗り越えたような沢山の冒険が。今日の冒険は、今はまだ巣立ちを待つ二人のほんの小さな冒険であった。


 薬草を取り終えた三人が、湖から去ろうとしたその時である。


 ガサガサ


 突如近くにある茂みが大きく揺れ、三人は素早く身構えた。


「下がってて」

 母親はポロンとペチャを背にかばうように、一歩前に進み出る。


 ガサガサ……ガサガサ……


 茂みの揺れは徐々に大きくなり、揺れが一瞬止まった次の瞬間、茂みから二つの影が飛び出してきた。


「ふぅ、なんとか拓けた場所に出たな」

「はぁ……ムチャがカブトムシなんて追いかけて森の奥までに入るから迷うんだよ」


 茂みから出てきたのは、剣を背負ったツリ目の少年と、大きな杖を手にしたタレ目の少女であった。


「おぉ! 人もいる! 助かったぁ〜」

「すいません。森の出口どっちですか?」


 茂みから現れた少女の問いに、ポロンは湖へとやってきた道を指差して答える。


「こ、この道を三時間くらい……」

「三時間!?」

「結構迷ったもんねぇ」

「仕方ない。行くか……」


 そう言って少年と少女はトボトボと森の出口に向かって去って行った。


「ねぇお姉ちゃん、あのお兄ちゃん、お父さんに似てたね」

「うん、女の子の方はお母さんに似てたね」

「え? 私に似てた?」


「「ちょっとだけね」」

 こうして、三人は仲良く杖に跨り家へと帰って行った。


 —————————————————————


 その数時間後、無事に森から出る事ができたムチャとトロンは、森の入り口で果物を食べながら一息ついていた。


「しかし深い森だったなぁ」

「途中で霧で迷ったしね」


 するとそこに、農夫らしき老人が通りかかり、二人に声をかける。


「おい君達、その森に入ったらいかんよ」


「「え?」」

 キョトンとする二人に、老人は更に言葉を続ける。


「その森は別名「時曲ときまの森」って呼ばれていてね、迷うと違う世界に飛ばされてしまうと言われているんだ。悪い事は言わないから入るんじゃないよ。前に森で迷った奴が、老人になって帰って来た事もあるんだ」

「別の世界って何だ?」

「えーと、なんて言ったかな。パ、パラレ……まぁ、とにかく森には入らないこったね」


 老人はそう言ってどこかへと去って行く。

 ムチャとトロンは森の入り口に刺さっている立て札を見た。すると、そこにはこう書かれていた。


【立入禁止・の森】

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