サキュバスパンデミック24

 エスペリアは羊毛に埋もれながら、パチクリと瞬きをした。

「好き?」

「そうだよ! 大好きだ!」

「こんな私でも?」

「どんなエリーでも好きだ!」

「ゲロ吐いたりしても?」

「僕が拭いてやる!」

「私、口悪いわよ?」

「それもチャーミングだ!」

「私がおばさんになっても?」

「そしたら僕はおじさんだ」

「私より長生きしてくれる?」

「うちの家系は無駄に長生きだよ!」

 不意に沈黙が訪れ、二人は見つめ合う。


 ボムン


 エスペリアの姿が、サキュバスからいつものエスペリアへと戻る。そしてエスペリアはゆっくりと頷いた。


「……!!」


 ハリーノは目を見開いて、何度も口をパクパクさせると、天に向かって大きくガッツポーズをする。そしてエスペリアに抱きついた。

「きゃっ!!」

 二人は羊毛に沈み、その姿は見えなくなった。


 金縛りの解けたムチャとトロンは、顔を見合わせ、プリムラを見た。

「サキュバス化、解いた?」

「えぇ、野暮はダメって言ったでしょう」

 プリムラはなんとも言えない表情を浮かべており、プリムラの隣にいるケセラは指をくわえて、羨ましげにハリーノ達が消えた羊毛の山を見つめている。


 すると、どこからか雄叫びが上がった。

「うおー!! 男子レジスタンス! 最後の吶喊とっかんをかけるぞ!!」

「行きますわよ! 女子反抗軍! 突撃あそばせ!!」

「教員連合隊! まだ無事な生徒達を救出するんだ!」

 それは逃げ延びた生徒や教員達が合流し、サキュバス達に対抗するために組まれた連合軍であった。彼らは互いの背を守り合い、魔法や投網を駆使してサキュバス達を次々と捕獲していく。そして隠れていた生徒達もそれに合流し、時計塔周辺はさながら合戦場のような有様になった。


 ムチャはプリムラに言った。

「確かに、人間は弱いかもしれない。だからみんなここで学ぶんだ。勉強して、遊んで、恋して、そして成長して、未来の幸せを掴むためにな」

「痴漢がいい事言おうとしてる」

「やかましい! さぁプリムラ! 俺達も決着をつけようじゃねぇか!」

 これが決戦だと、ムチャとトロンは身構える。


 二人ではプリムラに敵わないかもしれない。外のレジスタンス達もいつまで保つかわからない。それでも彼等から闘志は消えない。この学園の若人達の目には、確かに未来が映っていた。


「今日は、私の負けね」


 プリムラが指をパチンと鳴らすと、学園のあちこちでピンク色の煙が上がり、黒い球とサキュバス化が一斉に解けた。


「どう? 楽しかった? 鬼ごっこ大会」


 ムチャとトロンはあまりの呆気なさに、一瞬ポカンとしてしまう。

「あ、アホか! お前負けそうだからってズルいぞ!」

「だって私鬼ごっこ大会って言ったもの、イベントは一番盛り上がった時が終わりどきなのよ」

「でも、俺達まだお前を捕まえてないし……」

「じゃあ捕まえていいわよ。ほーら、タッチして♡」

「え?」

 プリムラはムチャにズイッとその豊かな胸を突き出した。


 ゴクリ……


 ムチャは喉を鳴らし、プリムラへとゆっくり手を伸ばす。そんなムチャに、グサグサとトロンとケセラの視線が突き刺さった。

「……ほらよ」

 ムチャはちょっとだけ残念そうに、プリムラの肩にタッチした。

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