サキュバスパンデミック23
あと数センチで、ハリーノの額にエスペリアの額がくっつく。ムチャとトロンがもうダメだと思ったその時である。ボーっとしていたハリーノが目を見開いた。すると。
モフッ
二人の顔の間に、モフモフとした何かが現れ、二人の顔は引き離された。モフモフは二人の顔に挟まれながら、高らかに鳴く。
「メェ〜」
それはハリーノの召喚獣である、羊のメリーノであった。
「ぷはっ! メリーノ!」
二人がメリーノの毛から顔を離すと、支えを失ったメリーノは鳴きながら地面に落下していく。それを見てハリーノは咄嗟に、自らを抱えるサキュバスの腕に噛み付いた。
「痛っ!」
サキュバスが手を放し、ハリーノは自由になった腕を伸ばしてエスペリアにしがみつく。そしてもう一方にいるサキュバスを蹴り飛ばした。
ただでさえ飛び慣れていないエスペリアは、ハリーノに全体重を預けられ、きりもみしながら落下していく。
落下しながらハリーノは、エスペリアの頭を守るように胸に抱えた。
「エスペリア! いや、エリー! 聞こえるか!? 僕の鼓動が!」
ハリーノの胸に押し当てられたエスペリアの耳には、ハリーノの鼓動がドクドクと聞こえてくる。エスペリアの目に僅かに光が戻った。
「僕は確かに君の事を何もわかっていないかもしれない! だから、君の事をこれからもっと知りたい! 君に相応しいかどうかはやっぱりわからない! でも、これだけは聞いてくれ! 僕は、僕は君の事が……んぶふっ!!」
ハリーノは一番大事なところで、毛が増殖してクッションになったメリーノの上に落下してしまったのだ。メリーノが一声鳴く。
「ナゲェ〜」
ハリーノは羊毛をかき分け、必死にエスペリアを探す。やがて、その手が羊毛の中にあるエスペリアの体に触れた。まさぐる手が、エスペリアの体のあちこちに触れる。でも今はそんな事は関係ない。煩悩はどこかに消え去り、ハリーノには今、ただ全てをかけて伝えたい言葉があった。
手がエスペリアの体を辿り、羊毛に突っ込んで抜けなくなっているエスペリアの頭を見つけた。ハリーノは肩を掴んでエスペリアの頭を引っこ抜く。
そして今度はハリーノがエスペリアの顔を掴み、真っ直ぐにその目を見て叫んだ。
「エリーーーーッ!! 僕は、君が好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああ!!!!!!!!!!!!!!」
カラーン、コローン、カラーン、コローン
時計塔の鐘が鳴った。
ハリーノの叫びと鐘の音は辺り一帯に響き渡り、生徒達やサキュバス達の耳に届いた。そして、ムチャとトロン。プリムラとケセラの耳にも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます