サキュバスパンデミック22

 ぼんやりとする頭の中で、ハリーノは思った。


 もしかしたらこれで良かったのかもしれない。

 だってそうじゃないか。なんの取り柄もない僕が、あの憧れのエスペリア様と結ばれるんだ。幸せじゃないか。


 でも、エスペリアの気持ちはどうなの?


 知らないよ。他人の考えている事なんて、いくら考えたってわかりゃしないんだ。もしわかったとしても、それは経験やパターンから判別した予想に過ぎないよ。


 頭でっかちだなぁ。エスペリアは本当に君の事を好きだったかもしれないよ?


 そんなのありえないよ。デートだって、きっとモテない僕を憐れんで付き合ってくれただけさ。


 それこそ、さっき言ったような予想だろ?


 そうかもしれないけど、そうに決まってる。それに、もし好意を抱いてくれていても、僕はエスペリアを泣かせてしまったんだ。


 だから嫌われたって思うの?


 そうさ。いつも可憐で誇り高く、凛々しいエスペリア様の顔をあんなにぐしゃぐしゃにしちゃったんだ。


 へぇ、いつも可憐で誇り高く、凛々しいエスペリアが、なんの取り柄もない君の前で泣いたのかい。


 そうさ。本来なら合わせる顔も無いよ。


 それってさ、凄い事じゃないかな?


 え?


 君は人前で泣けるかい?


 泣くときは泣くさ。


 いい家の生まれで、成績優秀で、容姿端麗で、みんなから尊敬される立場でも?


 そんなの、なった事が無いからわからないよ。


 そう。君にはエスペリアの気持ちがわからないんだね。じゃあ、エスペリアには君の気持ちがわかるかな?


 わかるはずさ。僕なりに必死にアピールしてたんだ。エスペリアは賢いからわからないはずがないよ。


 それをちゃんと言葉にした事はあるかい?


 あるよ。尊敬しているとか、憧れてるとか。


 それじゃあ伝わらないよ。エスペリアはその言葉から、経験とパターンで君が胸に秘めているその気持ちを予測するしかないわけだ。


 真似するなよ。さっきから君は何が言いたいの?


 どうせなら最後に、君の気持ちを伝えたらどうだいって話さ。


 最後?


 最後さ。もうすぐ君達はあの真っ黒い球になって永遠に結ばれる。君達の気持ちとは関係無しにね。


 そっか。最後なら、いいかな。少しくらい恥かいても。


 もしかしたらOK貰えるかもよ。あのデートに誘った時みたいに。


 だったら、いいなぁ。


 あのときは驚いたね。みんなの顔を見たかい?レオもムチャもあんぐり口開けてさ。


 リャンピンなんて鼻から紅茶吹き出してたね。


 ねぇ、聞いて。


 なに?


 世界には、君の知識では導き出せない答えがいくつもあるんだよ。だから、恐れてもいい、失敗してもいい。一歩だけ踏み出してみるんだ。それがモテるための一番の秘訣さ。


 キミモテの後書きだね。


 正解。


 ねぇ、さっきから気になっていたけど、君は誰なの?


 僕かい? 僕は……

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